【らんまん】順調すぎる流れでも、万太郎(神木隆之介)に「策士」のイメージがない理由は?
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田幸和歌子
朝ドラを見るのが1日の楽しみの始まりとなっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!
長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第9週「ヒルムシロ」が放送された。本作は、明治の世を天真らんまんに駆け抜けた高知出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。
今週は万太郎(神木隆之介)の恋心が、シェイクスピアの文学や「西洋文化」になぞらえて描かれた。
万太郎にとって、一目惚れだった寿恵子(浜辺美波)は、これまで万太郎の喜びや幸せで、植物図鑑を作るアイディアを思いつく創造力の源にもなっていた。しかし、ライバルの出現により、嫉妬心を覚えた万太郎は、自身の中に初めて生まれた黒い感情を知る。
植物雑誌創刊の許可を得るため、万太郎は田邊教授(要潤)に交渉できる機会をうかがう。田邊の机にあるバイオリンとシェイクスピアの原書に着目した万太郎は、西洋の音楽は日本の音楽とは違うのかと聞き、丈之助(山脇辰哉)の熱弁を話のタネに用い、「友人がシェイクスピヤいう作家は日本の勧善懲悪とは違うて、生身の人間そのまんまを描こうとしゆうと、そう申しちょりました」と、音楽との共通性について質問。
さらに、画工・野宮(亀田佳明)に見せてもらった植物画の西洋の植物画には、陰影がついていて奥行きがあったことに話を広げ、西洋文化への着眼点の良さを評価され、西洋音楽の演奏会に同行させてもらうことになったのだ。
その演奏会で出会ったのが、ドレスに身を包んだ寿恵子だった。叔母・みえ(宮澤エマ)の企みにより、元薩摩藩士の実業家・高藤(伊礼彼方)の家に菓子を届けに行った寿恵子は、目を付けられ、鹿鳴館での社交のダンス要員になるよう請われる。
思いがけない場所で遭遇した万太郎と寿恵子は別室で話をしようとするが、そこに高藤が現れ、万太郎を隠すため、寿恵子は足が痛いと嘘をつくと、高遠は寿恵子をお姫様抱っこする。その光景が頭から離れなくなった万太郎は、恋の病に陥るのだ。
その一方、植物雑誌創刊の交渉は、さくっと成立。寿恵子への恋心や嫉妬心という難題が現れたことで、万太郎の中のハードルの高さや、優先順位の天秤が狂ってしまっているのが人間らしい。
しかも、植物学会誌の話を外側から聞いた学会事務局長の大窪(今野浩喜)が激怒してやって来ると、自分たちの監督と費用をお願いしたいと言い、「巻頭の言葉」を依頼。大窪を気持ちよくさせ、活版印刷での大量部数まで約束させてしまう。
順調すぎる流れでも、万太郎に「策士」のイメージがないのは、上下関係なく、誰とでもフラットに接し、いろんな人の言葉に耳を傾け、それらを自身の中に取り込んでいく柔軟性のせいだろう。植物雑誌創刊は、丈之助の助言あってのことだし、田邊が行く演奏会への同行は、丈之助や野宮との交流がヒントとなり、実現したもの。植物学教室2年生の波多野(前原滉)や藤丸(前原瑞樹)は、もはや同士だし、万太郎をよそ者扱いしていた大窪も、すでに万太郎に巻き込まれている。
万太郎のトランクを盗み、中の標本を燃やそうとした倉木(大東駿介)は、東京中の植物採集の案内役だし、万太郎きっかけに長屋の住人たちとも酒を酌み交わす仲になっている。
「何の役にも立たない」とされる雑草一つ一つに名前も役割もあることを知る万太郎は、人間についても、本人ですら気づいていなかった良さを見つける天才で、それぞれの力を借りる天才とも言える。