認知症は「本人のペースに合わせることは難しい」 だから、完璧を目指さないで!
親の介護でイライラしてしまい、そんな自分にまた自己嫌悪を感じて……という経験はありませんか。まじめに介護する人ほどストレスがたまりやすいといいます。周りの手を借りること、自分自身を大切にすることも、介護には必要。川崎幸クリニック院長の杉山孝博さんに教えていただきましょう。
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親思いの子どもほどストレスがたまりやすい
親が認知症になり、子どもが介護する場合、親の介護で退職せざるを得なくなる人も少なくありません。子どもが心身に受ける重圧はとても大きいといえます。
認知症の人のなかには24時間、介護を必要とする人もいます。親が高齢で、体が自由に動かせなくなると、同居している子どもが排せつや入浴、着替えの介助などで体力を要することも多く、足腰などを痛めてしまうケースもよくあります。
親の行動・心理状態が激しいと、子どもが本人から目を離すことが難しくなり、夜もゆっくり眠ることができなくなるかもしれません。
親思いの子どもは、親のことが気になり、優先して考えて、自分のことはおろそかになりがちです。そのため、疲れがたまり、知らず知らずのうちに体に不調をきたす人も少なくありません。
そこで、子どものほうも、自分自身の健康管理を心がけることが大切です。
食事・睡眠・運動といった生活習慣を整え、定期的に健康診断を受け、病気の芽が見つかったらきちんと治療を続けるようにしましょう。
まじめに介護する人は心の変調に気づきにくい
とりわけ注意したいのは、介護する人の心の不調です。
介護のストレスや疲労による不調は、体にあわれることもありますが、心の不調はなかなか見えにくいものです。
特に「自分が親をみる」と宣言し、介護に一生懸命に取り組む人ほど、心に変調をきたすリスクが高くなります。不調を放置すると回復が遅れ、認知症の親と共倒れといった事態になるおそれもあるため、自分の心の状態に注意を向けることが大切です。
本人のペースに合わせることは難しい
認知症の人の介護をするうえで「本人の言動やペースに合わせることが大切」といわれています。しかし、介護をしている身からすると、やらなければいけない家事や仕事が山ほどあり、本人のペースに合わせるのは難しいという人もいます。
では、認知症の介護を上手にしている人は、自分や家族のことを犠牲にして、介護に専念しているのでしょうか。
いいえ、必ずしもそうではなく、介護を上手に続けられている人は、むしろ、自分の時間をうまくつくっている人ともいえます。
本人のペースに合わせる場合、「時間をかけて食事をするのを待つ」「着替えに時間がかかる」「なだめ、すかしてやっとお風呂に入れる」といったように、時間のかかる日常生活の動作を急かさないで待つということが必要になります。
しかし、家族は本人のゆっくりしたペースに我慢ができなくなり、「早くして」「さっき言ったばかりでしょう」「いい加減にして」「もう手を出さないで、私がやるから」というような催促・注意・禁止などの言葉が出てくるようになります。
そうすると、本人は不安になったり反発したりして、ますます家族の言うことを聞いてくれなくなります。その結果、介護の時間が増え、家族の負担を大きくしてしまうという悪循環が生まれるのです。