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【光る君へ】紫式部(吉高由里子)の弟・惟規(高杉真宙)と一条天皇(塩野瑛久)が去り、いよいよ物語は終盤へ

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志賀佳織

【光る君へ】紫式部(吉高由里子)の弟・惟規(高杉真宙)と一条天皇(塩野瑛久)が去り、いよいよ物語は終盤へ

大河ドラマ「光る君へ」第40回より ©️NHK

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第39回 「とだえぬ絆」と第40回「君を置きて」です。

▼「光る君へ」のレビュー一覧は▼2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」レビュー

物語もいよいよ終盤にさしかかってくると、一人、二人とまた去っていく人が増える。このたびの2回は、特に悲しい別れが続いた。

寛弘六(1009)年、中宮・藤原彰子(あきこ/見上愛)は、前年に続いて皇子・敦良(あつなが)を出産した。土御門殿はわが世の春といった趣で、産養(うぶやしない)の祝宴が行われる。儀式のあとの宴では、藤原公任(きんとう/町田啓太)、藤原斉信(ただのぶ/金田哲)、藤原行成(ゆきなり/渡辺大知)、源俊賢(としかた/本田大輔)らが、今後も左大臣・藤原道長(柄本佑)を中心に結束していくことを誓う。そしてその場で道長は、自身の娘・彰子の実の子である敦成(あつひら)親王がいずれ帝になる姿が見たいなどと豪胆なことを言ってしまう。

まひろ(紫式部/吉高由里子)は年末年始を里で過ごそうと帰宅。道長から娘・藤原賢子(かたこ/南沙良)への裳着(もぎ)の祝いの品も持ち帰ってきた。するとその場にいた弟・藤原惟規(のぶのり/高杉真宙)の「やっぱり自分の子はかわいいんだな」の発言に、父・藤原為時(ためとき/岸谷五朗)は驚く。賢子が本当は道長の娘であることを初めて知ったのだった。というか、ここで筆者も「そうだったの?」と思ってしまった。お父さん、知らなかったんでしたね。

内裏の藤壺に戻ったまひろに、道長が、正月の宴の席で為時が自分のほうを見つめたあげく、何も言わずに帰ってしまったといぶしがる。まひろは適当にお茶を濁すが、この道長も、これまでに「わかるでしょう!」と視聴者が思うタイミングがいろいろあったはずなのに、かなりの鈍さではないか。

その頃、病を得て床に臥していた藤原伊周(これちか/三浦翔平)が最期の時を迎えていた。「俺は奪われ尽くして死ぬのか」と最期まで恨み言を漏らし、わが子・藤原道雅(みちまさ/福崎那由他)には「左大臣には従うな。低い官位に甘んじるくらいなら出家せよ」との言葉をのこす。

不運が重なったとはいえ、最後の最後まで自分の生き方をつらくする人だなぁと、見ていてこちらまで胸が痛む人生だった。でもその人物像を三浦翔平は好演したと思う。驚くのは享年36であったという事実だ。今とは平均寿命が違うとはいえ、もう60代ぐらいかと勝手に思っていた。1000年前の人生は進み方が速く、儚いものだと改めて思わされる。ほんの短い人生だからこそ、平安貴族たちは「もののあはれ」に美を見出し、あのような雅な文化が育まれたのだろうと、そんなことも感じた。

兄とは違う生き方を要領よく選べた藤原隆家(たかいえ/竜星涼)は、亡き皇后・定子(さだこ/高畑充希)の遺児である敦康(あつやす)親王(片岡千之助)の後見は自分が務めるが、左大臣への忠誠は変わらないと道長に告げる。

一方、一条天皇(塩野瑛久)も体調を崩していた。そのためいずれ東宮にと考えている敦康親王の元服を急ぐ。中宮・彰子のもとを離れなければいけない敦康は、翌日に元服を控え挨拶のため彰子のもとを訪れた。手を握り合って別れを惜しむ二人の様子を見た道長は、まひろに苦言を呈す。「敦康様は、お前の物語にかぶれすぎておられる。光る君のまねなぞされては一大事である」。言いがかりもいいところな気がするが(笑)、やはりまひろも呆れて取り合わない。しかし道長は危ういものを感じて苛立ちを募らせ、行成に敦康の住まいをすぐに移すように命じる。

大河ドラマ「光る君へ」第39回より ©️NHK

彰子のもとを妹の藤原妍子(きよこ/倉沢杏菜)が訪ねてきた。東宮・居貞(いやさだ)親王(木村達成)の后になることが決まってその挨拶に来たのだが、相手が18歳も年上であること、東宮は皇后である藤原娍子(すけこ/朝倉あき)を熱愛していることなどに不満を漏らす。「宿命に抗わず、その中で幸せになればよい。きっとよいことがあろう」と諭す姉に妍子は、父が自分たちを権勢の道具にしていると息巻く。それをそばで聞いていたまひろがたまらず「おそれながら、そのようなお言葉はご自身をおとしめられるばかりかと存じます」と忠告すると、妍子は一層反発する。「何かうるさい、この人」。いや、なかなかいいキャラで、今後要注目だ。

寛弘八(1011)年正月、為時一家には思いがけない慶事が続き、喜びに湧いていた。惟規が従五位下(じょごいのげ)に昇進し、さらに為時も春の除目で越後守(えちごのかみ)に任じられたのだ。二人は揃って内裏に上がり、道長に礼を述べる。「姉は気難しくて、人に気持ちが通じにくいのでございますが、どうぞ末永くよろしくお願いいたします」という惟規の言葉に、道長はまひろとのことを知られているのだと悟る。為時と惟規は藤壺のまひろを訪ね、挨拶する。以前の越前行きのときには父に同行できたまひろも、今ではそれは叶わない。代わりに惟規が越後まで父を送っていくことにしたのだ。

為時と惟規の旅立ちを前に、屋敷では賢子の裳着の儀が行われる。賢子は祖父・為時にはついて行かず、使用人のいと(信川清順)と乙丸(矢部太郎)と三人で屋敷を守っていくと言う。もちろん母のような宮仕えも絶対にしないと硬い表情で告げる。それを見た為時は「頑固なところはまひろにそっくりだ」と苦笑する。

大河ドラマ「光る君へ」第39回より ©️NHK

その夜、まひろと惟規は二人で話をする。かつてまひろの裳着の儀のときは、父に反抗して目も合わさずに怖かったと、惟規は述懐。そして「親子って、変わらないようで、変わるんだな」「賢子と私の仲も、いずれよくなるってこと?」「たぶんね。だって賢子の母上は、姉上だけなのだから。左大臣様の姉上への気持ちも変わらないな。左大臣様はすごいよ」

何だか調子のいい惟規がこんなことを漏らすと、関係のないこちらでも、気味の悪い何かを感じてしまうが、案の定、越後へ向かう道中、惟規は突然の腹痛を起こし倒れてしまう。そして運び込まれた越後の国守館で父に見守られながら、呆気なくこの世を去ってしまった。

大河ドラマ「光る君へ」第39回より ©️NHK

報せはすぐに都の為時の屋敷にももたらされ、内裏から帰宅したまひろは、弟の辞世の歌を目にする。「都にも恋しき人の多かればなほこのたびはいかむとぞ思ふ」。都にも恋しい人がいるので、生きて帰りたいという意味の歌。最後の「ふ」は力尽きて、後から父が付け足したという説もある。いずれにしてもあまりに切ない歌だ。

まひろは号泣し、その姿を見た賢子はそっと母に寄り添い、その背中をさすり続ける。彼女にとっては近寄りがたかった母の人間的な一面に初めて触れた気がしたのだろう。悲しくも惟規の死を通して、その母子関係は惟規ののこした言葉のとおりになったのだった。

行き詰まる場面で、いつも飄々としたキャラクターで場を和ませてくれた惟規の旅立ちは、視聴者にとっても欠落感が甚だしい。これも高杉真宙の好演の結果だろう。一歩間違えば軽薄で鼻につく感じになってしまうかもしれないところを、持ち前の品のよさがきちんと前面に出て、とても姉思いで伸びやかな「若様」像が作られていた。今回のドラマは若い人にも芸達者が多くて、見応えがあると改めて思う回だった。

▼前回のレビューはこちら▼
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