【渡辺えりさん】月9500円の家賃すら滞納していた日々…生きる支えとなった言葉とは?
実をいえば、渡辺さんは小学生のときにひどいいじめに遭っていた。「小2と小6は地獄でした」と話す渡辺さんには、忘れられない記憶がある。
「母が私を連れて、いじめの首謀者の子の家に行ったんです。いじめないでほしいって言いに。そしたらその子、家ではめちゃくちゃいい子だったの。お母さんの期待にこたえようと必死で、そのストレスを私にぶつけていたんでしょうね。ある意味、あの子も被害者でした」
物事を一面的に見てはいけないと気づかされた経験だった。その体験をもとに、27歳のときに『ゲゲゲのげ』という戯曲を書いた。
「主人公はいじめられっ子のマキオくん。あるとき彼は、突然気づくんです。自分だって友達を見捨てたことがあった、と。被害者だって別の面から見ると加害者だし、加害者も別の場所では被害者になる。『逆もまた真なり』という言葉を、重要な場面のセリフに使いました」
「逆もまた真なり」
「被害者も加害者になりうる」という意味で、いじめられっ子を主人公にした戯曲にあえてこの言葉を使った。実は「大好きな沢田研二さんがラジオで『ぼくの座右の銘』と言っていて、ずっと心の中に残っていたんです」
この作品は若手劇作家の登竜門として知られる岸田國士戯曲賞を受賞し、渡辺さんが演劇の世界で生きていくためのパスポートとなった。
「でもね、私はもともと暗い子なので、ときどき落ち込んで死にたくなるんですよ。そんなときに思い出すのがトーマス・マンの言葉『考えるな、働け』です。くよくよするんじゃない、目の前の仕事をひたすらこなせ!って自分に言い聞かせます」
多くの夢をかなえたように見える渡辺さんだが、笑って否定する。
「かなわなかった夢は山ほどありますよ。ジュリー(沢田研二さん)とも結婚できなかったし(笑)」
今一番の夢は? と聞くと、「世界平和」と迷わず答える。
「世界中で戦火が絶えないからこそ、平和をテーマに芝居や講演をしています。私が生きているうちには実現できないかもしれないけれど、くよくよ考えずに、働きます!」
「考えるな、働け」
中学生の頃、名言集で見つけたトーマス・マンの言葉。くよくよと考え込みがちなときに思い出すという。「頭で考えるだけで、行動しないのは一番だめなこと。とにかく最初の一歩を踏み出すことが大切なんです」
INFORMATION 二月新派喜劇公演『三婆』
本妻(波乃久里子)、愛人(水谷八重子)、小姑(渡辺えり)の3人のおばちゃまたちの奇妙な共同生活が始まった!? 女たちの老後問題をユーモアたっぷりに描いた丁々発止の大人気喜劇。果たしてその行く末は……。
PROFILE
渡辺えり 女優、演出家、劇作家
わたなべ・えり●1955年、山形県生まれ。
16歳のとき舞台『ガラスの動物園』を観て演劇を一生の仕事にすると決意。23歳のときに劇団を立ち上げ、作・演出・出演の三役をこなす。
82年『ウィークエンド・シャッフル』で映画初出演、83年にはNHK連続テレビ小説「おしん」に出演して話題に。同年、『ゲゲゲのげ』で岸田國士戯曲賞受賞。
取材・文/神 素子
※この記事は「ゆうゆう」2025年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
▼あわせて読みたい▼
>>ブレイディみかこさんを勇気づけた3つの言葉とは?「苦境に負けないためには自分を愛すること、 そして自分へのリスペクトが不可欠です」 >>近藤サトさんが選ぶ珠玉のフレーズ「育て磨いた芸こそが『枯れない花』となる。 恩師の言葉を胸に研鑽を積んでいきたい」 >>「不安に押しつぶされそうになったとき、この言葉が弱い自分の支えに」高橋大輔さんを変えたひと言とは?