田舎に住む父に免許返納を促すタイミングは?【財前直見さん】に聞く、親とのつき合い方
終活ライフケアプランナーの資格をもつ財前直見さん。家族に伝えたい情報をひとつにまとめた「ありがとうファイル」を考案。日常でも非常時にも大いに役立つ財前流の終活とは?(全2回の後編)
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>>【財前直見さん】の終活とは?「エンディングノートを書くのは大変。だからファイルを作りました」
PROFILE
財前直見さん 俳優
ざいぜん・なおみ●1966年、大分県生まれ。85年に俳優デビュー。
映画『天と地と』(90年)や、ドラマ「お水の花道」シリーズ、近年では「光る君へ」(NHK)など数々の作品で活躍。
2007年、大分に移住。その暮らしぶりを紹介する、「財前直見の暮らし彩彩」(NHK Eテレ)、「なおみ農園」(毎週木曜22時〜BS日テレにて放送中/TVer、Huluでも配信中)に出演。
インスタグラムでも発信中。
代々の“おふくろの味”、地元の野菜の育て方……、受け継いでほしいことを記す
財前さんは大分市に自宅を構えているが、2年前にかつて祖父母が暮らした杵築市の古民家を建て直し、別宅として利用。そこには広大な農地があり、野菜や果物を育てている。地元の人たちと餅つきをしたり、収穫した野菜を持ち寄って料理したり、交流の場にもなっている。
「古民家の囲炉裏の上にあったすす竹を天井のオブジェにしました。古きよきものを残し、自然豊かなこの土地で、みんなで楽しいことをするのが、先祖への供養になると思うんです」
田舎にいると、畑や山の作物で生活できると話す。
「よもぎでお茶や餅を、ゆずの搾り汁でポン酢を、皮でピールを、種で化粧水も作れます。何も買わずにすむ(笑)。仮にインターネットが使えなくなっても、お金がなくても生きていけるというのは心強いですね」
畑仕事で体を動かし、採りたての野菜を口にする生活は健康維持にも最良なのだろう。80代の父と母はともに元気。介護が必要になったときのことは、具体的には考えていないという。
「そうなったら……訪問介護員さんを探そうと思います。その程度しか考えていません。だって二人ともよく動くし、ピンピンしていますから。それ自体が素晴らしいこと。今は一緒に楽しい時間を過ごすことが第一」
親の免許返納についても、財前さんは、こう考える。
「田舎は車がないと不便。父は日常的に運転していますが、安全運転。若くても危ない運転をする人もいますし、免許返納は年齢で決めるものではないと思うんです。でも、もし認知症の兆しが表れたら、全力で止めます。父の車のキーを隠しちゃう」
ひとり息子の凛太郎さんは、今春大学に進学し、家を離れる。
財前さんが整えた先祖代々の土地と家を、息子に継いでほしいという思いはあるのだろうか。
「息子の人生を縛るつもりはありません。杵築の家は集いの場、遊び場として誰かがつなげていってくれればいいかな。息子に残したいのは、家庭料理のレシピや野菜の育て方とか、食を含む財前家の文化や歴史。それらもファイルに入っています」
実は財前さん、延命措置や死に関する項目はまだ空欄が多い。
「医療も技術も日進月歩。20年後には、空飛ぶ車が開発されて、寝たきりでもスイスイ移動して快適に生活できるかも(笑)。まだ書けない項目は思いついたときに書けばいい。そんなふうに緩く考えると、エンディングノートの作成もハードルがグンと下がると思います」
思い出の味つけはしっかりレシピに残す
母から受け継いだ”おふくろの味”。「家庭料理のレシピは、子どもに残したいものの一つ。うちの畑で採れる、はやとうりの果糖漬などの作り方をイラストで描きファイルに入れています。将来、息子や息子のお嫁さん、そして孫もこのレシピを見て再現してくれたら嬉しい」
財前直見さんの「わたしファースト」終活のすすめ
今、イメージできないことは書かなくていい
介護されることになったら、自分が死んだら……。「今はまだ想像できないことや考えると暗くなることは無理に書こうとしなくていい。思いついたときに考えればいいんです」
「ありがとうファイル」はしまい込まず家族で共有
日常や災害時にも役立つ情報が詰まった「ありがとうファイル」は、保管場所を家族に伝えて共有することが大事。「避難時にさっと取り出せるよう、避難グッズと一緒にキャリーケースに保管するのも一案です」
心変わり、書き直しOK。終活はフレキシブルに
終末期医療や葬儀のことなど、今の希望を記しても、時代や状況が変化して考えが変わることも多々ある。「今、書いたことが絶対ではない。生きている限り変更可能です」
取材・文/村瀬素子
※この記事は「ゆうゆう」2025年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
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