75歳を前に、熊本に移住した【姜尚中さんの終活】「妻が毎朝作ってくれます」健康維持の秘密とは?
姜尚中さんの終活とは? 体調を悪くして始めた「野菜スープ」と筋トレ
——終活の準備を奥様とされているということですが、具体的にはどんなことをなさっていますか。
姜尚中 終活なんて口では言ってるんですけど、何かをやるというわけでもないんですよ。伴侶のうちどちらかが先に逝くか、それはわからないよね。だから極力一緒の時間を作ろうということになった。いいパートナーであったかどうかはわかんないけど(笑)。なんとなしに共通している気持ちはとにかく一緒にいる時間をたくさん作る、ということ。
だから今は2人でよくジムに通ってる。1時間ちょっとぐらいかな。その前にジョギングで有酸素運動をして、今度は筋肉をつけなきゃいけない。そういうのはどちらかというと妻が詳しいんですよ。「金」と筋肉の「筋」は絶対裏切らない——確かにその通りですね(笑)。
どうしても足腰が弱っていくんですよ。そのためには下半身と体幹を強くしなくては。昔は野球をやっていたんですが、その後は運動からちょっと離れていたし、継続的な運動はやっていなかった。最近はずっと継続しています。今日もホテルでスクワットをしてきました。妻の話では、60歳か50歳ぐらいから筋肉が確実になくなっていって、そのことが老化につながる。だから筋力さえしっかりしていればね。
あとは私が体が悪くなった時があったので、熊本大学の前田浩先生が考案した野菜スープを飲んでいます。基本的に、すべて悪いのは「炎症」だそうです。癌も炎症のひとつ。野菜には、その炎症を防ぐ力があるんですね。煮沸すると栄養素が一部逃げるかもしれないけど、それでも吸収がよくなる。私はそういうことには無頓着だったけど、妻が詳しいので、前田さんのスープ療法を実行しています。
朝は温かいスープを飲む。野菜を煮て、それをミキサーにかけて。野菜はキャベツ、ニンジン、玉ねぎ、かぼちゃ、季節の野菜でブロッコリーとかね。そして味付けをして、朝必ずそれをお腹の中に入れます。
朝食のメニューですか? まず温かい野菜スープ。それから、純度の高いトマトジュース。タンパク質を取らなきゃいけないので、一番いいのは卵です。有精卵がいいそうです。それから私はパンが好きだったけど、できるだけグルテンフリーがいいということで、おじやとかご飯、和食にしたりね。そういうふうにいろいろ工夫をしながら、必ず朝はしっかり食べています。
それからオートファジーがないとね。オートファジーっていうのは、掃除の時間。お腹に何も入れない時間ですね。理想は16時間とかいうけど、それはできないから、前みたいに昼間も一生懸命食べなきゃいけないということはなくなりました。
あとは私は甘党だから、もっと砂糖入れてくれっていう話になるんですね。そうなると、時々妻と口喧嘩になる(笑)。
熊本行って良かったのは、最近のことなんですけど、1週間に2回魚屋さんが車で来てくれるんですよね、新鮮な魚、近海もの、青物が体にいいわけですよね。九州はだいたい青物が多いわけです。アジとかサバとかね。コノシロもそう。1週間に2回ぐらいは魚を食べていますね。食事は可能な限り多品種で少量で食べる。
——最後にゆうゆうtimeの読者、50代60代女性に伝えたいことがありましたら教えてください。
姜尚中 私がこの書籍で言いたかったことなんですが、女性は多分これまで、日本を含めアジアの中ではなかなかうだつが上がらなかった。そういう時代を生きた人が多いと思うんですよ。このインタビューの最初で自己肯定感が乏しいと言われたこともそうですね。
それが急速に変わっていって、この世代はその変化についていけなかった人もいる。あるいはその変化があるがゆえに、自分も何かできるんじゃないかと期待を持っている人もいる。そういう点では同じ悩みを持っている人が、日本だけでなく、近くのアジアの国にいる——。そういう人たちのことを知るというのがいい。視野狭窄の中で生きているところから解き放たれて、視野を広げてほしいと思います。
視野が狭いと、選択肢がここしかないと思ってしまう。視野が広がると、楽になるんですよ。そういう点では、自分と同じようなことに悩む人たちが、韓流ドラマやいろんなところにいるということを見たり聞いたりして、わかってきた。そういう時代が来てるし、今までとはまた違う世界が見えてくると、ものすごく、ある種の開放感があると思います。
何も学術的なことじゃなくても、ドラマとかエンタメとか、いろいろなことを通じて、これからもっともっとアジアのことを、お互いに共有し合える時代がくるといいですね。
姜尚中さん プロフィール
かん さんじゅん●1950年生まれ。政治学者。東京大学名誉教授、鎮西学院学院長、熊本県立劇場館長。著書に100万部を超えた『悩む力』、『続・悩む力』『心の力』『母の教え 10年後の悩む力』『朝鮮半島と日本の未来』『在日』『母—オモニ—』『心』『アジアを生きる』(すべて集英社)など。『アジア人物史』(集英社)では総監修を務める。近著に『生きる証し』(毎日新聞出版)。
撮影/佐山裕子
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