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朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか

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田幸和歌子

朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか

「あんぱん」第40回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

▼前回はこちら▼

朝ドラ【あんぱん】すれ違ったままの“失恋” 嵩(北村匠海)とのぶ(今田美桜)はどういった形で道が再び交わるのか

釜次(吉田鋼太郎)の絶叫と嗚咽が響く——

今田美桜主演のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第8週「めぐりあい わかれゆく」が放送された。

今週描かれた大きな柱は、ヒロインのぶの縁談である。女子師範学校を卒業し、母校である御免与尋常小学校で教師として奮闘する日々を送る。

お見合いのお相手は、亡きのぶたちの父・結太郎(加瀬亮)が何度も乗っていた船の機関長の息子で、「はちきんのおのぶ」と呼ばれていることなどを楽しく語り、いつか息子と結婚してほしいと言っていたという。「結太郎が引き合わせてくれた縁談じゃ」と、朝田家では盛り上がり、のぶ本人も、
「たまるかー!」
という感じである。

東京でいまも絵を学ぶ嵩(北村匠海)のことはもういいのかと思うが、
見合いの日に、
「私は結婚する気がまだないがです」
「父の話が聞きとうてのこのこ来てしまいました」
と、本心を明かす。結婚願望ではなく、大好きだった父の影を追う娘の思いなのだと。

それを聞いた相手の次郎(中島歩)も、
「実は僕も」
と返す。もう30歳なので早く身を固めろと言われるが、1年中船上にいるため、結婚の必要性を感じたことがないと笑う。ある意味で同じ方向にいくふたりにはある種の友情のようなものが芽生えていく。

そんなある日、戦地に赴いた豪(細田佳央太)の戦死の報が朝田家に届く。作品は一転して純愛もののムードから重苦しいものに一変する。
「豪よ―――――――――!」
報らせを受け取った釜次(吉田鋼太郎)の絶叫と嗚咽、慟哭が響く。

朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか(画像2)

「あんぱん」第37回より(C)NHK

それをまだ知らないのぶは、帰宅途中に生徒たちに会い、
「朝田先生に敬礼!」
と生徒たちに言われまんざらでもなさそうな笑顔を浮かべる。〝愛国の鑑〟と言われ、軍国主義にすっかり染まってしまった感が漂う。そんな気分で帰ったところに待ち受けていたのは、絶望に包まれる家族たちの姿だった。

「のぶちゃんやったら、英霊になった豪に立派じゃと言うちゃりたいじゃろ?」
「のぶちゃんは愛国の鑑じゃきのう」
釜次の友人たちに同意を求められる。そのすぐ傍にはうなだれる家族、そして豪と無事帰ってきたら結婚しようと約束した妹・蘭子の空虚な背中がのぶの視界に入る。

「豪ちゃんは……お国のために……立派に……ご奉公したがです……」
大粒の涙を流しながら切れ切れに口にする演技に、のぶの中で起こる葛藤が強く滲み出る。当時の戦争への向き合い方とはそのようなものであったのであろうが、疑問を抱くことはなかなか許されない時代だったのであろう。

そんななか、当初よりひとり厭戦の姿勢を貫いてきた屋村(阿部サダヲ)は、皮肉混じりに、
「立派だったと言ってやらないといけないのかね、愛国の先生」

蘭子にも、建前のように、
「豪ちゃんの戦死を、誰よりも蘭子が誇りに思っちゃらんと」
と言う。戦死して英霊になり、時には特進することもある。死が名誉であるという戦争の捉え方は、現在の目では理不尽でしかないことである。

朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか(画像3)

「あんぱん」第38回より(C)NHK

番組前半で亡くなった息子の結太郎の名前を釜次が身を引き裂かれるような思いで掘ったことは今も強く印象に残るが、豪の名前を、
「すまん……わしには掘れん……」
と、その死を受け入れられないように苦しむ。

喪が明け復職したときに、立派な兵隊になる、従軍看護婦になって兵隊さんのお役に立ちたいと口々に無邪気なアピールをする子供たちの戦争感。これが、のぶたちの教育によって生み出した成果物である。蘭子のまさに身を引き裂かれたような思いが交錯する。
『アンパンマン』の原作者やなせたかしが描き出す愛と平和の世界、その根底には戦争体験者であるからこその反戦の思いもあってのものである。このドラマでもそれは強く打ち出されているように見えるが、この先、嵩本人がどうそこに向き合い何を感じていくのかが気になるところである。

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