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朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか

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田幸和歌子

千尋の聖人ぶりが際立つ

朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか(画像4)

「あんぱん」第39回より(C)NHK

さて嵩のもとに千尋(中沢元紀)からの手紙が届く。そこには手紙で豪の戦死とのぶに縁談が次々舞い込んでいることを伝え、気持ちを伝えるなら早いほうがいいと書かれていた。自分自身ものぶへの淡い思いを抱いているであろうに、兄のために、そしてのぶのために引いた立場で支える。千尋の聖人ぶりが際立つ。

のぶからの便りは一切ないが、この千尋の手紙によって、嵩の中で何かが吹っ切れたのだろう。指摘されていた絵のタッチも「いいじゃない。スランプ抜けたか」と評価されるように明るいものに変わり、卒業制作が仕上がったらのぶに会いにいくことを決意する。
「今度こそちゃんと気持ちを伝える」
ずっとモヤモヤし続けていた嵩、ようやく動き出す。

寛あての葉書に<東京高等藝術學校で學んだ歳月の集大成なので、最高傑作にします。>としたためる嵩。その決意に寛はとても満足げで、
「兄貴にしてはえらい強気な文面やね」
と千尋も嬉しそうだ。

しかしもう、時すでに遅しである。次郎が正式に結婚を申し込みにきた。
「まだ決心がつきません」
と、のぶは断るものの、
「気持ちが変わるまで僕は待ちます」
と男らしくかつ大人な理解ぶりをみせる次郎。子供たちにとって教師も続けていいという理解ぶりをみせる。まだまだ子供のままのような嵩とそのあたりも対照的な存在として置かれている。

朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか(画像5)

「あんぱん」第37回より(C)NHK

後日、二人は面会し、のぶは次郎にどうしてそう思ったか問う。
「人を好きになるのに理由がいりますか?」
恋愛ものとして直球のセリフを言う次郎。強いていえばのぶの正直なところに惹かれたと言うが、のぶは、体操や学ぶことの楽しさ、夢を持つ大切さを教えたくて教師を目指したのに、「愛国の鑑」と呼ばれ愛国心教育をする立場になっていた。今は自分の中での葛藤が続くと言う。そういった気持ちを打ち明けるところこそ、まさに次郎が惚れた「正直なところ」である。

のぶが抱えるものを「荷物」にたとえ、そんなに重い荷物は船だったら沈んでしまうという。
「荷物を下ろす用意をしませんか?」

いつか戦争は終わる。世の中も変わるかもしれない。そのときのために今のうちから夢をを持つべきだと。自分は趣味のカメラで世界中の人たちを撮ってまわりたいという夢を語る。今の自分には何もないというのぶに、
「のぶさんは、足が早いき、すぐ追いつきます」

なんとも心を動かされるセリフだ。そしてこのシーンの光の入り方、のぶの顔や着物の映え方など、美しい映像が強く印象に残る。

いったん別れたあとで、踵を返し次郎の背中へ走り出すのぶ。
「大事なことを言い忘れました」

結婚の承諾だ。見つめ合いほほえむ二人。そこに合わせて次々と灯る街灯という粋な演出もまさに二人の気持ちそのままだ。

朝ドラ【あんぱん】「人を好きになるのに理由がいりますか?」直球の次郎(中島歩)のセリフが、なぜこんなに沁みるのか(画像6)

「あんぱん」第40回より(C)NHK

結果的に嵩は自動的に失恋したようになってしまった。婚約の報にパン生地をこねながら空を見上げ「あいつ、死なないといいけどな」と、おそらく嵩のことを思い、屋村もニヤつく。

次郎とめぐりあい、豪、そして嵩との別れ。サブタイトルそのままの展開となった今週。次郎の思いを受け入れ、二人がどう進展していくのか楽しみなところではあるが、言うまでもなく史実や第1話の冒頭で描かれたように、次郎とは別れのときが来ることは誰もが分かっている。しかも、今のところは「本当にのぶが好きなのは嵩」という雰囲気も薄らいできている。やがて訪れる次郎との別れ、戦争、そして嵩とどのように再会し、再び心を通わせていくのか。オリジナル要素をどのくらい楽しくかつドラマチックにアレンジしていくのか、次週以降にも期待はふくらむ。

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