朝ドラ【あんぱん】すれ違ったままの“失恋” 嵩(北村匠海)とのぶ(今田美桜)はどういった形で道が再び交わるのか
公開日
更新日
田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
▼前回はこちら▼
朝ドラ【あんぱん】二人はまるで駆け落ちするかのように汽車に乗り… 無事戦地から帰ってくることを祈るばかりさわやかラブコメぶりをみせてくれるメイコ
『アンパンマン』の作者・やなせたかしの妻、小松暢をモデルとした今田美桜主演のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第7週「海と涙と私と」が放送された。
戦争の影もちらつくいっぽうで、青春群像劇のような雰囲気が漂うここ最近の展開。それぞれの若者たちの繊細な思いが綴られた。
帰省する嵩(北村匠海)に「暇やったけん、ついてきたとです」と連れ立って高知にやってきた、東京芸術学校の同級生・健太郎(高橋文哉)。御免与駅へと出迎えに来た、のぶの妹、三女のメイコ(原菜乃華)は、健太郎に一目惚れのようにときめいてしまう。姉妹の末っ子であり、「♪あーんぱんー、あーんぱんー、ほっぺが落ちたよ朝田パン」と陽気に歌いながらパンを街頭販売するなど、天真爛漫に描かれるメイコの初恋のようなときめき。
食事をしながらぼんやりと、「うち、お嫁さんになりたい」「相手も見つけたき」とつぶやき、家族が健太郎の名前を口にしたら「今、誰か、健太郎さんって!?」と飛び込んでくるさまは、祖父の釜次(吉田鋼太郎)以外の女性陣には微笑ましい空気が流れるなど、まだまだ子供扱いなんだなというところが見てとれる。前週の悲恋のような次女・蘭子(河合優実)から、今週はメイコのターンとばかりに真逆のようなさわやかラブコメぶりをみせてくれる。
いっぽう、兵隊のための慰問袋づくりと献金活動が新聞に報じられ、「愛国の鑑」と讃えられるほどに愛国心のお手本のようになったのぶにとって、東京で絵をまなび、久しぶりの東京生活を満喫する嵩は呑気にしか映らないかもしれず、ふたりの思いはすれ違いをみせていく。
のぶを怒らせてしまったことに深く反省した嵩は、銀座で購入したプレゼントを携えて帰省していた。嵩は絵を描くこと以外は、基本的に不器用である。嵩の帰省には、なんとか仲直りしたいという思いも込められていた。いっぽう、今の言葉でいうところの〝陽キャ〟的な健太郎は、そんな不器用な嵩のサポート的役割も担っていた。健太郎とメイコは協力して仲直り作戦を企て、それによってメイコの思いもさらに強まっていく。
浜辺で「偶然」のように出会う(出会わされた?)嵩とのぶ。そして、メイコ、健太郎、千尋。それぞれの思いを抱えつつも、健太郎がギターをつまびき、メイコがメインで歌う『椰子の実』の曲をみんなで口ずさむことで和やかな雰囲気になっていく。5人の笑顔、きらめく高知の海、まさに青春の1コマという空気は冒頭に記した青春群像劇そのもののような場面である。
『虎の翼』でも、法律学校の5魔女たちがそれぞれの道を歩き始める前に、一緒に砂浜で楽しく過ごしたひとときが最後までその場面の美しさとともに記憶されたように、多くの視聴者にとって名場面としてこの『椰子の実』の場面も、記憶に刻まれそうである。