朝ドラ【あんぱん】二人の距離がどう変化していくのか、中園ミホ脚本の魅力が発揮されそうだ
公開日
更新日
田幸和歌子
「いい声でいいことを言う枠」を継いだような…
ところで高知新報の東海林は、寛(竹野内豊)、次郎(中島歩)らの、「いい声でいいことを言う枠」を継いだような位置付けのようにも見えるが、このオーソドックスな展開ゆえか、今のところは普通に頼もしく理解ある上司、立ち消えにはなったが夕刊の発刊に燃える仕事に対する姿勢に忠実な人物といった印象ではあるので、この先の活躍にも期待したいところである。
待望の夕刊の発刊が中止となり落ち込む東海林に、琴子と向き合うことで自分自身の「はちきん」ぶりを取り戻せたかのようなのぶは、溌剌とした表情でこう言った。
「ある人が教えてくれました。『絶望の隣は希望』やって。こんなの絶望のうちに入りませんき、元気、出しましょう!」
これこそまさに寛が「いい声で」伝えた名言である。絶望の戦後から少しずつそれぞれの「希望」、そしてサブタイトルにある幸福を探し、見つけていく。
戦争体験を経てまだまだ気分が沈んだままの嵩(北村匠海)にも、少しずつ希望の光が見えてきそうな気配もあった。進駐軍の廃品などを売る露店を健太郎(高橋文哉)とともに開いているが、進駐軍にとっての廃品を日本人に売るという現実に心もはずまない。そんななか手に取ったアメリカの雑誌、そのタイトルこそ『HOPE』だった。その自由な誌面に嵩は引きつけられ、目の光も取り戻しつつあるように見える。
そんな街にも、当時の人々に勇気と希望を与えたと言われ、戦後復興を象徴する曲『リンゴの唄』が流れる。希望は絶望のすぐ隣にある。のぶの妹・メイコ(原菜乃華)も、この曲に希望を見出したひとりだ。ラジオから流れる『リンゴの唄』を聞き、口ずさむ。そんなメイコは次女の蘭子(河合優実)に頭を下げ、「一生のお願い」と東京までの旅費をせがむ。
「ラジオの、のど自慢に出たいがよ」
聞けば、そのために上京したいのだという。これまでも『椰子の実』や、朝田パンの歌などを歌い、歌うことが好きな人物として描かれていた。メイコもメイコなりの希望をそこに見出して家出未遂まで起こすほどの新たな光に突き動かされていた。戦後の焼け野原の大地を、それぞれの足で強く踏ん張り、幸福に向かって歩いていく。真の復興が始まる。
