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ドラマ化で話題になった『一橋桐子(76)の犯罪日記』に続編が登場! 原田ひ香さんの新作の魅力に迫る

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ゆうゆう編集部

団地の管理人となった桐子が高齢化社会の課題に向き合いながら、人とのつながりや知恵を頼りに乗り越えていく姿を描いた『一橋桐子(79)の相談日記』。著者・原田ひ香さんにお話を伺いました。

ドラマに触発されて生まれた続編「相談日記」

『一橋桐子(79)の相談日記』は、2020年に刊行された『一橋桐子(76)の犯罪日記』の続編だ。前作「犯罪日記」の主人公、76歳の一橋桐子は親の面倒を見るために仕事を辞め、結婚することもなく親を看取り、年金と清掃のバイトで暮らしている。唯一心を許せる友を亡くし、将来を悲観した桐子は「刑務所を終の住み処にしよう」と、さまざまな犯罪に挑戦する。

2022年にはNHKでドラマ化され、桐子役の松坂慶子さんをはじめ、魅力的な登場人物、ハラハラワクワクするストーリーが大きな話題を呼んだ。続編を書くにあたり、原田さんもこのドラマに触発されたという。

「『犯罪日記』はエンドマークをつけて終わらせた作品のつもりでいました。それが思いがけずドラマになり、小説とは違う部分もあるのですが、桐子さんも、桐子さんの友達・高校生の雪菜さんも、桐子の上司・久遠さんも生き生きと描かれていて。私の中で彼らの存在が大きくなっていき、これは続きが書けるのかな、と思ったんです」

どんな状況でも一生懸命な桐子には「頑張れ」と声をかけたくなる。

「桐子さんは真面目で誠実で、仕事であるお掃除は丁寧にこなすけれど、とりたててすごい、というところのない女性。孤独ではないけれど身内に恵まれず、家もお金も何もない。そんなところが、皆さん、応援したくなるのかな、と思います」

現代の日本の縮図のような団地が舞台。高齢者問題を考えるきっかけになれば

「相談日記」で桐子は79歳になり、木造アパート住まいは変わらないが、清掃の仕事ではチーフとなり明るく前向きに暮らしている。そして21歳になった雪菜とともに「猿山団地」に住み込みの管理人として着任し、一癖も二癖もある団地住人たちと向き合うことに。

桐子たちが直面するのは老朽化した団地の再生、お金がないからと病気になっても病院に行かない老人、ひとり暮らしの老人の孤独、夫からのDVやモラハラに耐える熟年妻などなど。高齢化が進む日本の問題そのものでもある。

全6話のタイトルにも「老朽・病気・借金・結婚・孤独死・暴力」とシリアスな文字が並ぶ。

「どれも身近な高齢者の問題ですが、病気は特に大きい問題だと思っていて。お金もなく健康保険にも入ってないから医療が受けられない、と思い込んでいる人もいますが、今の日本ではどんな人でも治療が受けられないことはないんです。解決策はあります。役所とか周りの人とか、いろんな人に相談して最後まであきらめないでほしい、という思いで書きました」

桐子と雪菜はさまざまな人の手を借りながら、問題を解決していく。解決策として具体的な法律や制度を知ることができるのも、原田さんの小説の楽しみの一つ。年収100万円以下であれば、国民健康保険の保険料が免除になる場合があること、高額療養費制度では70歳以上で非課税世帯の場合、入院費は1カ月2万4600円、通院は1カ月8000円が上限、といった知識が自然な流れで頭の中に入ってくるのだ。

作品の中だけでなく実生活でも節約を実践

ところで、100万部を突破した大ベストセラー『三千円の使いかた』や、『財布は踊る』『月収』など、お金をテーマにした人間ドラマを数多く生み出し、読者の支持を得てきた原田さん。最近の物価高騰に何か対策を講じているのか、聞いてみた。

すると「普段、クレジットカードも使いますが、食費だけは現金で管理しています」と言って、バッグから100円ショップで購入したという半透明の横長ポーチを取り出し、見せてくれた。

「1カ月の食費を4つか5つのポーチに分けて入れて、月曜から日曜まで使います。目で見えるので使いすぎなども、すぐわかります。残ったお金は一つの口座に入れて、欲しいものを買うのに使っています。それと『三千円の使いかた』にも出てきますが、月の最後の数日は買い物に行かず、家にある食材で料理を作るノーマネーデーに。冷蔵庫の中もすっきりするし、毎日、節約節約って考えるより、けっこう節約できるんですよ。時間の節約にもなります」

少しずつ残った野菜を無駄にしない工夫もしている。

「野菜くずと牛乳か水、バター少しに調味料を入れるだけで、おいしいスープができるスープメーカーを手に入れました。ちょっとした空き時間にセットすれば、30分でできます。すごくいいのでおすすめです」

最後に日々の楽しみを伺った。

「海外のミステリードラマをよく見ます。YouTubeで料理をしているおばあちゃんの動画を見るのも好きです。新しいおばあちゃんいないかな、って毎日、探しています」

PROFILE
原田ひ香さん

はらだ・ひか●1970年神奈川県生まれ。
2005年「リトルプリンセス2号」でNHK創作ラジオドラマ大賞受賞。
07年「はじまらないティータイム」ですばる文学賞受賞。
「ランチ酒」シリーズ、『三千円の使いかた』『一橋桐子(76)の犯罪日記』など著書多数。

『一橋桐子(79)の相談日記』

原田ひ香 著 徳間書店

桐子と雪菜は住人の平均年齢60歳前後という団地の管理人になり、さまざまな問題に直面しつつも前に進んでいく。世代を超えた人と人とのつながりのあたたかさを感じる一冊。

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※この記事は「ゆうゆう」2025年10月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/田﨑佳子

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