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巷でいわれる「京都人あるある」とは? 直木賞作家・澤田瞳子さんの新作『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』

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ゆうゆう編集部

京都の街、日常の中にある「歴史のしっぽ」から、意外な史実、逸話が浮かび上がってくる…京都で生まれ、暮らす歴史小説家・澤田瞳子さんに、新刊『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』について伺いました。

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「知らないことを知りたい」が研究・創作の原点

2010年、『孤鷹の天』でのデビュー以来、数々の歴史・時代小説を上梓し続けてきた澤田瞳子さん。新聞や雑誌のエッセイも好評で、『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』も、雑誌『週刊新潮』に連載された人気エッセイをまとめたものだ。

「京都人は行かない金閣寺」「生八ツ橋「夕子」と『金閣炎上』」「「薪能」普及の立役者はオリンピック?」など、目を引くタイトルがずらり。どれも一つのテーマから、さまざまな方向に話が広がり、明かされる意外な史実、逸話に驚くとともに、もっと知りたいという思いにかられる。

紫式部の項では、『源氏物語』はすでに平安時代末期には古典的な文学作品として重要視されていて、井原西鶴は光源氏から着想を得て、『好色一代男』を書き、小説家・帚木 蓬生(ははきぎ ほうせい)さんは巻名からペンネームを取ったなど、千年を経ても影響を与え続けていることがわかる。「紫式部は鰯(いわし)が好物だった」という江戸時代の説話があるが、実は「鰯が好物だったのは和泉式部だった」はずが、人気者ゆえに紫式部の説話として入れ替わってしまったことも明かされる。

「一つのエッセイに2つはネタを入れたい、と思って。ネタはそのとき関心のあったこと、いつか書きたいなと思っていたもので、ネタ帳みたいなものはありません。あれば小説を書くときも楽だろうなと思うんですけれど。雑なんです」と笑う。

京都で生まれ育ち、今も暮らす澤田さん。大学では奈良・平安時代を専門に研究し、卒業後も研究者を志していたとはいえ、どれだけの歴史ネタ(知識)が澤田さんの頭の中の引き出しにつまっているのか。まさに博覧強記。

「知らないことを知りたい、という思いが強いんです。昔ってどんなだったんだろう、というのも知らないことの一つなんです」

その思いが歴史を研究し、小説家になったきっかけでもあるという。小説を書くときも、まず資料集めから始める。

「大学の図書館で必要な資料は全部借ります。そこから、また必要と思われるものを、集められる限りは全部集めます。国会図書館のデジタルアーカイブなども利用。原稿の締め切りがなければ、もっと調べたい、もっと知りたいってなるでしょうね」

関東の人は京都人を和食店に連れていってくれない⁉

本書には『源氏物語』『今昔物語』など有名な古典の他、多くの古典が出てくるが初心者におすすめは?

「藤原実資(さねすけ)の日記『小右記(しょうゆうき) 』ですね。今作では昨年の大河ドラマ『光る君へ』や、この『小右記』から取ったネタも多かったので。ドラマの時代考証を担当された倉本一宏さん編集の抜粋版(角川ソフィア文庫)が、読みやすくて面白いと思います。実資はドラマでは秋山竜次さんが演じていて、はまり役でしたね」

ドラマに登場した俳優さんの顔を思い浮かべながら『小右記』を読むのも楽しそうだ。

連載中、反響が大きかったのが、「京料理の誕生」という回。

「関東の方が京都の人に和食を食べさせてくれない話です。仕事で上京して知人と食事をする際、和食店に誘われたことがなかったんです。あるとき『京都暮らしの澤田さんを和食に誘うのは申し訳ない、というかちょっと怖い』と言われ、目が点に。京都=和食、京都人は毎日、おいしい和食を食べていると思われているんですね。そんなことないのに!」

京都が和食の代表的な土地になったのは、ごく最近。かつての京都の食べ物は、関東人には好まれていなかったという。

「薄味で、京都は食材の産地から遠いというのもあります。京の料理が変わったのは高度成長期以降、冷蔵技術の発達や交通網の拡大などで食材の幅が広がったのが大きいんです」

京都とは、歴史とは、と問うことは自分とは何かを問うことにもつながる

巷でいわれる「京都人あるある」も、澤田さんには心外だそうだ。

「京都人はイケズといわれますが、他の地域だったらいじめですよ。京都ネタに、京都人の『ピアノがお上手にならはりましたなぁ』、『音がうるさい』という婉曲表現だっていうのがあって。でも近所に本当にピアノが上達したお子さんがいたら、どうほめたらいいんですか⁉ 心外というより困りごとです!」

世界中から人が押し寄せて、オーバーツーリズムが問題となっている京都。住みにくくなったのでは。

「そうですね。普通の住宅地にも観光客がいらっしゃいます。訪れる人にとって、京都は巨大なテーマパークであり、京都の住人はそれを彩るキャストなんだなと思います」

そうはいっても「都として千年もの歴史があり、やはりどこを歩いても面白いのが京都」と澤田さん。本書から得たさまざまな知識を携えて、大人の京都旅に出かけたい。

巷でいわれる「京都人あるある」とは?  直木賞作家・澤田瞳子さんの新作『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』(画像2)

写真提供/新潮社

PROFILE
澤田瞳子さん

さわだ・とうこ●1977年、京都府生まれ。
同志社大学大学院博士前期課程修了。
2010年『孤鷹の天』で小説家デビュー、中山義秀文学賞受賞。『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞、『若冲』で親鸞賞、『駆け入りの寺』で舟橋誠一文学賞、21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。

『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』

澤田瞳子 著 新潮社

四季に分けられた50話。京都で生まれ、暮らし、日々、自転車で街なかを巡る歴史小説家の知的好奇心は、さまざまな時代、人、事象に飛んでいく。新しい京都指南の一冊。

※詳細は以下のボタンへ

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※この記事は「ゆうゆう」2025年9月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/田﨑佳子

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