「私が失敗する権利を奪わないでほしい」認知症の人が抱える180の困りごとと向き合う方法
認知症の予防や治療についての情報は多いけれど、本人や周囲が前向きな気持ちで向き合うためのノウハウは意外と知られていません。誤解や偏見をなくし、ともに生きるヒントを伺いました。
お話を伺ったのは
筧 裕介さん
『認知症世界の歩き方』著者、issue+design代表、工学博士
かけい・ゆうすけ●1975年生まれ。
2008年「issue+design」を設立し、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。
主なプロジェクトに災害時の避難所運営を支える「できますゼッケン」、育児支援の「親子健康手帳」など。
認知症は脳の誤作動。見えている世界が違います
認知症になったら何もできなくなる。そう思ってはいないだろうか?「多くの人がもつ認知症のイメージは、間違っていることが多いのです」と筧裕介さんは語る。
筧さんは、ものの形や機能などのデザインを通してさまざまな社会課題に取り組んでいる。認知症の方には世の中がこう見えていると解説したベストセラー『認知症世界の歩き方』の著者でもある。
「この本では認知症の方100人に話を聞いて、何に困っているのか、なぜそうした困りごとが起きるのかを“見える化”しました」
たとえば、家族の顔がわからなくなるという状態。周囲は「家族の顔も忘れたのか⁉」とショックを受けるが、本人に話を聞くと、忘れているわけではないケースがよくあるという。
「違う顔に見えているらしいんです。筧裕介が大谷翔平の顔をしている(笑)。筧ってこんな顔だったっけ? それで混乱するわけです。脳が誤作動を起こしていて、不思議な世界を見ているんですね」
ものごとを理解できなくなるというイメージにも誤解が多い。
「たとえば、認知症の方は自分が認知症だということを理解していないと思われがちですが、そんなことはありません。特に初期の段階では、自分の中で何かおかしなことが起きているとわかっています。ただ認めてしまうと、『認知症の人』として扱われて社会的に孤立してしまう。それを恐れて認められないケースが多いのです」
「困りごと」は人それぞれ
認知症の方が暮らしの中で困っていることを調べると、180ものキーワードが浮かび上がりました。困りごとの数も程度も人それぞれで、いちがいに「これが認知症の症状」と言えるものではないのです。
