認知症でも希望を持てる社会へ!認知症の本人が製品・サービスの開発に参画する【オレンジイノベーション・プロジェクト】とは?
今や1000万人以上が認知症であると推計されています。認知症になっても希望をもって楽しく生きていける社会にしよう!というプロジェクトが始動しています。認知症に対する私たちの意識をアップデートしていきましょう。
お話を伺ったのは
藤田和子さん
日本認知症本人ワーキンググループ 相談役理事
ふじた・かずこ●1961年鳥取県生まれ。元看護師。
45歳のとき若年性アルツハイマー病と診断され、翌年退職。
2017年に仲間とともに日本認知症本人ワーキンググループを設立し、認知症基本法の成立に尽力。
3女を育て、孫2人。現在は夫と2人暮らし。
認知症になって知る世間の大きな誤解
現在、日本ではMCI(軽度認知障害)を含めた認知症の人が1000万人を超えると推計されており、高齢化に伴い今後さらに増加が見込まれる。誰にでも起こりうる認知症を、否定的に捉えたり、タブー視したりするのではなく、たとえ認知症になっても希望をもって暮らせる社会をつくっていく––––。そんな取り組みが、進められている。
その一つが、「オレンジイノベーション・プロジェクト」(以下オレンジイノベーション)だ。これは、認知症の人が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生社会」の実現を目指す取り組み。そのためには、身の周りの製品が認知症の人にも使いやすいものであることと、認知症になってからも使い続けられるような製品やサービスが必要になる。そこで、認知症の人と企業が一緒に製品やサービスを開発していくというのが具体的な活動だ。
「こんな商品があったらいいな、ここを改良したら使いやすいのに、といったニーズは、認知症本人でないとわからないことが多いんです。認知症の人がゲストとして企業に呼ばれて意見を言うのではなく、当事者だからこその経験と工夫を企業に伝えて、主体的に開発に参画する。それがオレンジイノベーションです」
こう話すのは当事者参画の推進に関わってきた、日本認知症本人ワーキンググループの相談役理事を務める藤田和子さん。
藤田さんが日常生活全般で違和感に気づいたのは、45歳のときだ。
「はじめは、娘に何度も同じことを言うと指摘されて。やがて朝食べたものを全く覚えていない、という現象が起こりました。記憶力の異変を自覚しつつも、当時はパートで看護師として働き、3人の子育てや家事をして、PTA活動もしていたので、きっと忙しさのせい、脳の病気ではないと否定したかった。そんな私に『病院で診てもらったほうがいいよ』と背中を押してくれたのは、看護学校の学生だった長女でした」
診断の結果は、初期の若年性アルツハイマー病だった。
「ショックでしたけど、やっぱり、と納得する気持ちもありました」
藤田さんは認知症の義母を9年間介護した経験もあり、普通の人よりは認知症への理解が深かった。
「とはいえ、自分が当事者になると、人の目が気になって。アリセプトという薬を薬局でもらうときなど、周りの人にアルツハイマー病とわかってしまうのがイヤでした。私自身が認知症に対して偏見をもっていたのだと思います」
世間の誤解と偏見は、もっと大きかった。
「『認知症になったら、何もできなくなる、周りに迷惑をかける』『認知症になったら終わりだ』というのが一般的な認識でした。でも認知症になったからといって、急に何もできなくなるわけではありません。私は診断後も職場の理解を得て1年間看護師の仕事を続けましたし、家事は今でもできる限りやっています」
そもそも認知症と一くくりにするのが間違いだという。
「認知症とは、脳の病気や障害などが原因で認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態のこと。私の場合はアルツハイマー病が原因ですが、他にもさまざまな原因疾患があり、症状も千差万別。みんなが物忘れをするわけではなく、できること、できないことが人によって違うんです。認知症になっても企業で働き続けている人はたくさんいますし、新たに資格をとって事業所を立ち上げた人もいます」
オレンジイノベーション・ プロジェクトとは?
オレンジイノベーション・プロジェクトとは経済産業省のプロジェクトで、認知症になってからも住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる社会の実現を目指し、認知症の人が製品・サービスの開発プロセスに主体的に参画する「当事者参画型開発」を推進する。このプロジェクトでは、認知症の人のニーズをとらえた製品やサービスを開発するために、企業と認知症の人が共に価値を創造する「共創」を重視している。
主な取り組み
当事者参画型開発の普及
認知症の人が開発段階から製品やサービスに関わることで、よりニーズをとらえたものが開発されるよう推進。優秀な製品やサービス、取り組みは「オレンジイノベーション・アワード」として表彰している。
共創の場の創出
企業と認知症の人が共にアイデアを出し合い、製品やサービスを開発する場を提供し、新たな価値創造を支援している。
持続可能な仕組みの構築
当事者参画型開発が継続的に行われるよう、企業向けのノウハウ提供や、開発された製品・サービスの表彰など、仕組みづくりに取り組んでいる。
