88歳【俳優・山本學さん】認知症手前のグレーゾーンと診断→回復。そのカギは運動療法にあった!
ある日、ないはずのものが見えるようになった。軽度認知障害を告知された山本學さんは運動療法に励み、「治った」と言われますが─。今、山本さんは病気とどう向き合っているのでしょうか。
お話を伺ったのは
山本 學さん(88歳)
俳優
やまもと・がく●1937年生まれ。
俳優座養成所を経て、57年にデビュー。
「白い巨塔」の里見医師役など多くのドラマや舞台に出演する。
2022年、認知症の前段階であるMCI(グレーゾーン)と診断されたが回復し、今も第一線で活躍中。
認知症とともに生きる。どこまでも自分らしく
「こういう取材をお受けして言うのもおかしいけれど、僕は『ボケたっていい』とは思いません。認知症はやっぱりこわいし、ボケないに越したことはないですよ」
おっしゃるとおりで、何だか申し訳ない気持ちになる。ただ、と山本學さんは続ける。
「認知症になったことを否定したり隠したりしても、いいことはないと思うんです。病気を『なかったこと』にすると、進んでいく症状にも目をつぶってしまう。努力すればやれることはあるのにね」
壁に丸や三角が現れる。これはもしかして認知症!?
山本さんが最初に「おかしい」と感じたのは、3年ほど前のこと。あるはずのないものが見える、幻視に見舞われたのだ。
「壁に丸や三角の図形が見えるんです。あれ?と思って触ると消える。夢かと思ったけど、そうじゃなかった」
仕事柄、役づくりで医学書を読むこともある。自分の症状は、幻視が現れることの多いレビー小体型認知症ではないかと疑った。病院で詳しく検査をしたところ、レビー小体型ではないものの、軽度認知障害と診断されたのだという。MCIといわれる、明らかな認知症に至る一歩手前の状態である。
「MCIの段階で手を打てば正常値に戻ることもあると聞いて、がぜんやる気になりました」
医師の指導のもと、熱心に運動療法を続けたという。
「いわゆる筋トレです。スクワットを50回とか1分間の片足立ちとか、体が『もうやめてくれ!』と悲鳴を上げるギリギリまで追い込む。認知障害の人は感覚の神経が脳につながっていないことが多いので、運動で脳に刺激を与えるのです」
運動すると頭がスッキリするのが実感できた。きまじめな山本さんは頑張りすぎて12キロもやせ、肋間神経痛や心不全を発症してしまう。
「やりすぎちゃった(笑)。でも、おかげで医師からは正常値に戻ったと言われました。MCIから認知症への進行は7年ぐらいとされているから、ほうっておいたら本格的な認知症に進んでいたと思います。今も歩くときは漫然とではなく、かかとからしっかり地面を踏むことを意識しているんですよ」
同じ病気で同じ薬を使っても、効く人と効かない人がいる。だから、誰でも運動すれば山本さんのように改善するわけではないのだろう。「僕の場合はとても効果的だったんだね」と、山本さんは口にする。
