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最終回【あんぱん】が教えてくれた、人生100年時代の歩き方「何歳になっても…」

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田幸和歌子

『アンパンマン』の根底に流れる〝正義〟

最終回【あんぱん】が教えてくれた、人生100年時代の歩き方「何歳になっても…」(画像4)

「あんぱん」126回より(C)NHK

そして本作が放送された2025年の前期は、太平洋戦争の終戦からちょうど80年を迎える重要な期間でもあった。戦後80年、当時を経験した人たちも少なくなり、90年、100年のころにはその実際の記憶を辿ることは相当困難になってしまう。

このタイミングに、著書『ぼくは戦争は大きらい』をはじめ、一生をかけて反戦の思いを貫き平和の大切さを伝え続けたやなせたかしの人生は、描くべくして描かれたといっていいだろう。争いごとを好まない嵩のキャラクターにもそれは色濃く反映されていた。

「逆転する正義」。半年間に何度となく登場した言葉、概念である。愛と勇気、元気、平和、そういったものがさまざまなキャラクターの活躍によって、おもに乳児から未就学児の心に今も刻まれ続けるコンテンツ『アンパンマン』の根底にも流れる〝正義〟。本作の序盤から伝え続けられてきたが、〝正義〟とはその立場や考え方によって、ときに真逆のものとなる不思議な存在である。

その最たるものが戦争だ。互いの欲(と言ってしまっていいだろうか)は〝正義〟となり、それは大義名分として戦う理由となる。それが正義だと信じてしまうこと、それが戦争だ。そしてそれが敗戦と同時に真裏のものとなる。

そのあたりも、戦時には〝愛国の鑑〟としてもてはやされたのぶの葛藤とともによく描かれ印象づけられてきた。嵩の弟、千尋(中沢元紀)や蘭子(河合優実)の恋人、豪(細田佳央太)、のぶの最初の夫・次郎(中島歩)などの戦死による虚しさもまた、正義が逆転したことでの犠牲者である。

最終回【あんぱん】が教えてくれた、人生100年時代の歩き方「何歳になっても…」(画像5)

「あんぱん」127回より(C)NHK

最後まで「できるかな」と自信なさげなことを口にする嵩だが、最初から最後まで奥にひめる芯の強さが変わることはなかった。嵩の中での〝正義〟は、一切逆転することはなく、今もたくさんの人たちに、「愛と勇気」が友達であることを教え、元気100倍、勇気100倍にさせてくれている。

何のために生まれて、何をして生きるか。人生100年時代、晩年になってからいっそう大きな勇気の花を咲かせたやなせたかし(嵩)、そしてのぶの生きた道は、長い人生、何歳になっても何かになること、何かをすることができる。二人が笑顔で寄り添って歩く姿は、それを示してくれたようだった。

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