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夫婦のすれ違い、嵐の前夜——80歳の元ミス日本代表・谷 玉惠さんが描く、愛のゆらぎ【私小説・透明な軛#3】

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谷 玉惠

嵐の前の静けさ

やがて、夏休みの季節になった。夫は旅行のパンフレットすら持ってこない。
「どこへ行こうか?」
と言う知香にまったく乗ってこなかった。

はっきりしないうちに海外旅行のパックツアーは満席になってしまった。夫の休暇が7日間もあるのに予定がないのは初めてのことだ。

夫への当てつけもあり、休みは短いほうが経営的にもよいと思うことにして、知香だけ5日間に短縮した。

夏休み初日、夫の提案で初めてディズニーランドへ行くことになった。盆休み前の日を狙った彼の読みが的中して、思いのほか混雑はなかった。

少しでも多くの乗り物に乗りたくて、吹き出る汗をぬぐいながら二人で走り回った。「アラジンと魔法のランプ」のショーでは、開演1時間半前から席取りをしているらしく、地面に敷物を敷いて人々が座っている。知香も夫と一緒に場所を確保した。

昼の時間帯で、容赦なく太陽が照りつける中、「お互いによくやるよね」と笑いながら、二人は子どもに戻ったようにはしゃぎ、久しぶりに心の底から笑った。夫は自分の帽子を知香に被せ、体で日陰をつくり太陽から守ってくれた。ここ半年間、自分を見ていないように思えた夫の優しい目があった。

開門と同時に入場し、花火が夜空を彩るまで、飽きることを知らなかった。

2日目は、ヨットを楽しみに逗子まで出かけた。ヨットは夫が職場の同僚と共同で購入した「シーマーチン」という二人乗り。休みのたびに二人でヨット教室に通い、風の読み方や波のうねり、帆を操る技術などを勉強した。その甲斐あって、最初はおっかなびっくりではあったが、帆いっぱいに風をはらませ、船首を上げて海面を滑るように進めることができるようになった。

春や秋の風の強い日や波の高いときは、バタバタはためく二枚の帆に恐れをなして、せっかくセットしてもたたんだこともあった。しかし、夏の海は穏やかだ。

時には船を停めて昼寝もできる。平和な時が過ぎてゆく。たまにはこんなのんびりした夏休みも悪くはないものだと知香は思った。

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