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病に倒れた父のために、継ぎたくなかった家業を22歳で継承。社員4人からスタートでした【笑美面社長・榎並将志さんのターニングポイント#1】

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ゆうゆう編集部

今回お話をうかがった榎並将志さんは、高齢者住宅の紹介サービスという新ビジネスで注目を集めている「株式会社 笑美面(えみめん)」の代表です。「介護家族にとって、ホーム介護の利用がポジティブで当たり前になっている状態をつくる」という使命を掲げ、「介護家族が心の介護に向き合い、高齢者が笑顔でいる社会」のために邁進してきました。榎並社長にこれまでの人生のターニングポイントを伺いながら、会社立ち上げのきっかけや高齢者介護への想いを語っていただきました。

「裕福な家の子」と思われるのがイヤだった子ども時代

――介護施設などの高齢者住宅と、入居先を探している高齢者とのマッチング事業をおこなっている「笑美面」。2010年に榎並社長がその前身となる会社を創業されましたが、もともとご実家が地元の大阪で不動産会社を営んでいらっしゃったんですよね。

はい。祖父が始めた会社で父が2代目です。結果的に自分が3代目として会社を継いだのですが、継ぐつもりはなかったんです。商売をやっているので実家は裕福でしたが、それが逆にイヤだったんですよね。勉強やスポーツができても周囲に「裕福な家の子だから」と思われがちで、自分の実力だと認められたい気持ちがありました。今思うと贅沢なのですが、親の用意したレールに乗るのはイヤだと思っていたんです。

――ご両親にはその気持ちを伝えていたんでしょうか?

勝手に習い事を辞めたり、学校に行かなくなったり、家を出たりして……(笑)。でも父は、文句を言いながらもそんな自分の行動を認めてくれていましたね。そのおかげで二十歳前からいろいろなチャレンジができて、先輩のビジネスを手伝ったり、友人とビジネスを始めたりして稼ぐことができていたんです。

――「自分の実力で」を示したんですね。それでも家業を継ぐことにしたのはどうしてですか?

僕が22歳のときに父が体を壊したんです。それで母に呼び出されまして、あとを引き継げと言われたんですが、最初は断りました。でも母から「お父さん、本当はおじいちゃんのあとを継ぐのがイヤやったんよ。継ぎたくないというあんたの気持ちがわかるから、あんたを自由にさせてくれていたんやで。それ、わかってるの?」と言われたんですよね。自分にはそんな視点はなかったと気づかされて、自分の器の小ささを感じたというか……。その教育方針は正しかったんだと、父に感じさせてあげなければと思ったんです。

開業した賃貸仲介ショップは、お祝いの花が届きすぎて生花店に間違われた!

――それでお父さまの会社を引き継がれたんですね、いきなり社長となったわけですが、最初にまず何をしましたか?

めちゃくちゃ勉強しました。会社法のこと、経営のこと、税務のこと、不動産のこと。全部独学です。楽しかったですね。自分でやろうと決めたことだったので。父の代の従業員はすべて辞めていたので、最初は僕ひとりだったんですが、経理と事務の人に来てもらって、営業は僕の後輩が入ってくれて、4人でのスタートでした。

――会社は最初から順調だったんでしょうか?

父から引き継いだ業務は不動産の管理業だったんですが、少し立て直しが必要でした。清掃が行き届いていないというようなことをなくして、サービス業としてあたり前のことをちゃんとやるということを徹底しました。それから、土地を仕入れてそこに賃貸マンションを建ててお貸しするっている開発の事業ですね。それはどんどんやりました。僕の代からの新しいことにもチャレンジしました。賃貸仲介のお店を出したのもその一つです。

――部屋を借りたい人が行くお店ですよね? どんなお店だったんですか?

スタッフが女性のみの女性のお客さま向けの賃貸仲介店です。それまでの賃貸仲介店は、物件のチラシがバーッと貼ってあって中が見えないようなところとか、当時はまだ厳しくなかったのでタバコの煙が充満しているところとか、地方から出てきて初めて部屋を探す女性にとって入るのに気が引けるようなお店ばかりだったんですよね。それでスタッフを全員女性にして、ガラス張りでめっちゃおしゃれなカフェみたいにして。

――それは斬新ですね! 当時はまだ榎並社長は20代ですよね?

24歳か25歳のときですね。僕、友人が多かったので、開店祝いの花が40個くらい届いたんですよ。そしたら花屋さんがオープンしたと思って入ってきてしまうお客さんもいて(笑)。あと、今でいうシェアハウスもつくりました。今でこそ人口減少が言われていますけど、それは当時からで、不動産の営業的に将来は明るくなかったんです。事業のリスクヘッジ(予防策)の意味でシェアハウスもつくりました。

孤独死などの「あってはならないこと」の解決をめざして

――若いころから柔軟な発想で不動産業に取り組んでいらしたんですね。その後、介護施設事業を視野に入れるようになったそうですが、会社の理念や事業内容に高齢者に対してのやさしいまなざしを感じます。昨今、現役世代と高齢者の分断をあおるような発言も散見されますが、それについてはどう思われますか?

高齢者のために現役世代の負担が増えるという話ですよね。それはよく聞きますけど、決定的に「感謝」を忘れていますよね。今のこの豊かな日本をつくったのは現役世代じゃない。たまたまこの時代に生まれただけです。今の日本、めちゃくちゃ豊かじゃないですか。どこにでも水洗トイレがあって、餓死する人もほとんどいないですよね。この豊かな日本は、今の高齢者やその上の世代の人たちがつくったということを忘れてはいけないと思います。

――上の世代の方たちへの感謝の気持ちが事業の根底にあるのですね。

それに加えて、自分たちは「なくてはならないサービス」をやっているつもりなんです。なくてはならないものを提供しているということは、そこには「あってはならない社会課題」があると思っていて。「あってはならない社会課題」とは、孤独死や介護を苦にした心中のことです。

少し古いデータですが、日本では亡くなっても48時間以上誰にも気づかれない孤独死が1日に73人、1時間に3人の方の身に起きているんです。これは僕はあってはならないことだと思いますし、それを解決したいという想いで事業をおこなっています。

笑美面社長・榎並将志さんのターニングポイント①
「父の病気を機に家業である不動産会社を引き継ぐことを決意。会社経営や不動産を独学し、賃貸仲介店の開業やシェアハウス事業など、新しいことにもチャレンジしました」

榎並将志さん

えなみまさし●1984年年大阪府生まれ。祖父が興した不動産会社を22歳のときに父から引き継ぐ。2010年に介護施設事業への参入を検討し「笑美面」の前身となる会社を創業。2012年に「笑美面」へ社名変更し、高齢者とシニアホームのマッチング事業をスタートさせる。2016年に東京オフィス、2017年に福岡オフォスを開業するなど各地に拠点を広げ、2023年には東証グロース市場への上場を果たす。プライベートでは4児の父。

株式会社 笑美面 https://emimen.co.jp/
*毎週1回、さまざまな入居エピソードを紹介しています
https://emimen.co.jp/media/

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撮影/柴田和宣(主婦の友社) イラスト/ピクスタ 構成・文/志賀朝子

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