【ばけばけ】行間大爆発!屈指の名場面に震える前半折り返し。あまりにも精錬で美しい、見事な気持ちの通じ合い
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節子をモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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>>【ばけばけ】ほほえましさとじれったさ。少しずつ心の距離が近づき、あとは互いに抱える気持ちが何であるかを気づくだけ!ブレのない演出が頼もしくある
人が生きる中で、何度も訪れる出会いと別れ。NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、その大切さを強く意識して描かれているように感じる作品だ。しかも、それが大仰すぎず、どちらかといえば静かに、そしてなにげない日常の積み重ねのようなトーンで描かれてきている。
髙石あかりが演ずるヒロインのトキのもとに、ある日、前夫・銀二郎(寛一郎)からの手紙が届く。そこに書かれていたのは、松江を訪れるということだった。東京での生活のなかでのすれ違いによって別れ、松江に帰ってきたトキだが、今もまだうっすらとした思いは残るようで、気持ちは少し乱れる。日常を重ねる中で少しずつ確かなものに育まれつつあったヘブン(トミー・バストウ)への思いがある中だけに、自覚はないようにも見えるが、複雑な心境だ。
「おトキとやり直すために、お願いに参りました」
松野家を訪れた銀二郎は、こう挨拶する。未熟だった自分を詫び、あらためてやり直しを願う。銀二郎が言うには、東京で起業し、月に200円を稼ぎ出すほどの大成功を収めているとのことだ。
離婚はしたものの、トキと銀二郎の関係は、とても清廉なものとして描かれてきた。嫌いになったわけではなく、縁が少し悪かっただけ。そんなふうにある意味「純愛」を貫いたままといった印象を残した別れだっただけに、二人がふたたび出会い距離を近づけることはごく自然に受け入れられる。
そんなロマンチックな再会の場面でありながら、頭を下げる銀二郎を取り囲む松野家の面々+サワ(円井わん)の〝小芝居〟がすぎて、ときめきそうな気持ちを笑いでかっさらっていく。そこは、この〝小芝居〟による笑いは、この作品の大きな魅力であると思う。
娘を捨てたとまた斬り捨てようかというフリをしつつ寛容に銀二郎を受け入れる祖父の勘右衛門(小日向文世)、前述した月に200円という銀二郎の成功を聞いた途端に色めきたち、長期間離れていただけだと都合のいいことを言う父の司之介(岡部たかし)、そして銀二郎の「やり直し」発言を聞き、野次馬的に驚くサワの〝顔芸〟。
決して劇的にせず、トキの少女時代からずっと重ねられてきた、ちょっとした笑いの要素をこうした夫婦の再会という重要な局面にももってくる。そのブレのない演出が頼もしくある。
銀二郎とトキは、あらためて会う約束をする。その日の休みを「知り合いに会う」とヘブンに願い出ていたが、いったんは「ホリュウ」とされていた。この「ホリュウ」にもまた、ヘブンにとっての複雑な思いが込められている。
銀二郎の松江訪問と時を同じくして、ヘブンがずっと大切にしている写真立の女性、イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)が松江の港に降り立つ。ヘブンの元にもイライザからの手紙が届いていたのだ。
それを知ったトキは、
「明日、知り合い、会う、言いました。それ……前の夫、会います」
例によって、区切り区切り丁寧にヘブンに真実を明かす。
「シリアイ、ナイ……」
少しショックを受けた様子のヘブンに、
「すみません、つれあいでした」
とトキは言う。
トキとヘブンがそれぞれ抱く思いは、本当は明らかである。しかしお互いそれに気づいていないのか、気づかないように抑えているのか、どこかもどかしい雰囲気のまま少しずつ距離を近づけてきていた。あとは気づくだけというタイミングでそれぞれ届き気持ちを揺らす二通の手紙。
