【ばけばけ】ほほえましさとじれったさ。少しずつ心の距離が近づき、あとは互いに抱える気持ちが何であるかを気づくだけ!
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節子をモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
▼前回はこちら▼
>>【ばけばけ】実は一番大人?「先生を射止めるのは大変よ」と、無自覚なトキ(髙石あかり)に寄り添うリヨ(北香那)の人間性に感心!「私、怪談、知っちょります」
「カイダン、ネガイマス!」
いよいよきた! といったところである。
日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)とその妻・セツをモデルとしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。第12週のサブタイトルがまさにこれそのもの、「カイダン、ネガイマス。」だった。
このドラマはハーンとそのパートナーがメインである以上、ヘブン(トミー・バストウ)が日本の怪談にどう出会い、どう残していくのかといったところが大きな山場であることは確かである。しかし、これまでにも本コラムで何度か触れてきているが、万人が知る何かを残した人物にスポットをあてた朝ドラに比べると、それがいつ起きるのかということがあまり気にならない作品といっていい。
怪談も、髙石あかり演じるトキが、母のフミ(池脇千鶴)より幼いころから寝る前やつらいことがあったときに何度も聞かされて育ってきたなど、折々に触れられてはいるが、それはあくまでもキャラクターを彩る要素のひとつのようでもあり、キャラクター性豊かな登場人物たちがおりなすテンポのよい日常を積み重ねたストーリー運びによって、ヘブンはいつになったら怪談を書くことになるんだろう? となったりせず、ドラマの世界観に寄り添いながら折り返し地点付近までたどりついている。
そんなヘブンが大きく怪談に感銘を受けるのが、本作で何度も登場する大雄寺で、伊武雅刀演じる住職から『水飴を買う女』を、小さな墓の前で聞かされるくだりである。
——ある飴屋に、痩せこけたカゲロウのような女が夜な夜な水飴を買いにきていた。
ある晩、不審に思った飴屋があとをつけると、女は墓の前で姿を消し、土中から赤ん坊の泣く声がする。
あわてて掘り返したところ、そこには亡くなった母親と、生まれたばかりの赤ん坊が。
お腹に子を残したまま亡くなった母の思いが幽霊となり、水飴を買いにきていたのであろうと……——
このなんとも悲しい怪談にヘブンは号泣する。そして、こう言った。
「ハジメテ、カイダン、スバラシ……」
「モット、ホシイ……」
日本(松江)に伝わる怪談をもっと聞かせてほしいという。しかし、寺に伝わる怪談は、この墓にまつわるものだけ。
書斎に座るヘブンに、トキはこう声をかけた。
「怪談に、ご興味あるですか……?」
ヘブン、くいつく。トキのアピールは続く。
「私、怪談、知っちょります」「ようけ、ようけ、知っちょります」
ヘブンは「Really!?」と大興奮だ。まさかこんな近くにとも言っていたが、自分が求めるものをトキがたくさん持っていた。これこそが、ヘブンが錦織(吉沢亮)に伝えていた、日本滞在期を完成させるために必要な〝ラストピース〟、怪談であり、トキの存在そのものがラストピースとなるのかもしれない。
