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介護中の50代女性が自宅で開業!?その焼き芋屋が人気店になるまで

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更新日

依田邦代

「小さなお店をやりたい」という女性は多いですが、その夢を50代でかなえた人がいます。「まさか私が焼き芋屋さんをやるとは夢にも思っていませんでした」という小森京子さんの、いくつもの偶然に導かれ、自宅で開業したストーリーを聞きました。

Profile
小森京子さん 「長瀞壷焼き芋専門店moriko」店主

こもり・きょうこ●1964年埼玉県生まれ。
高校卒業後、観光バス会社や化粧品店勤務を経て結婚。89年に長男、96年に二男を出産。
薬局・アパレル店での接客や自動車の営業に携わり、2017年に父の介護を機に退職。20年に母の介護が始まる。
同年、焼き芋カーを始める。22年に自宅の一部にmorikoをオープン。

じゃがいも派だった私がまさかの焼き芋屋さんに

埼玉県の長瀞は、豊かな自然が人気の観光地。そんな美しい山や川に囲まれたのどかな里に今、話題の焼き芋屋さんがある。壷焼き芋専門店morikoだ。

4年前に自宅の一部を改装し、小さな焼き芋屋さんを始めたのは小森京子さん、61歳。店先にはさつまいもを焼く素焼きの大きな壺が二つ並んでいる。

「今、ちょうど焼けたので食べてみませんか?」

この日は平日の午前中。時折、お店裏手の秩父鉄道の電車の通過する音が聞こえるだけののどかさだ。しかし休日ともなると、観光客をはじめ、自転車やバイクのツーリングのグループ、近くのキャンプ場に来た家族連れなどが、続々と訪れる。

「バイクが何台も連なって駐車場に入ってくると、『どうしよう、お芋が足りないかも』とあわてることもあります(笑)」

口コミやSNSでうわさが広まり、いつしか地元の人気店となったmorikoだが、実は小森さんは特に焼き芋が好きだったわけでもなく、商売もまったくの素人だった。

取り出した焼きたてのさつまいもから、たちまち甘い香りが漂う。アツアツの紅はるかを二つに割ると、中からねっとりなめらかな黄金色があらわれ、ほわーっと湯気が立った。皮ごとかじってみる。砂糖もバターも加えていないのにまるでスイートポテト。今まで食べた焼き芋とはまったくの別物だった。

大きな素焼きの壺が店先に並ぶ。毎朝7時に火入れをし、8時にさつまいもを壺に入れて焼き始める。後はこまめに場所を入れ替えたり、表裏を返したり、火を足したりして2時間15分かけて焼き上げる。

焼き芋の優しい甘さが介護疲れの心身にしみた

1964年に埼玉県秩父市に生まれた小森さんは、小学5年生のときに長瀞に引っ越して来た。高校卒業後は化粧品店などで働き、24歳で結婚。翌年に長男、7年後に二男を出産し、その後、子育てをしながら病院の薬局やアパレル店で働いた。そして、自動車の営業を最後に退職。それは父親の介護がきっかけだった。その3年後には母親が認知症になり、小森さんは家で親の面倒を見る生活に。

あるとき、お姉さんが焼き芋を差し入れてくれた。

「その焼き芋の甘さにとても癒やされたんです。小さい頃、よく祖母がさつまいもに銀紙を巻いて落ち葉の中で焼いてくれました。でも、その頃はじゃがいものほうが好きで、焼き芋好きな母と姉に『焼き芋のどこがおいしいの?』なんて言っていました。そんな私がお店を出すほどハマってしまうなんて(笑)」

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