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【ばけばけ】こうして『怪談』は世に送り出された——その先に待つ、せつなく美しい幕引きとは

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田幸和歌子

帝大もクビになり、「オワリニンゲン」となる

サブタイトル通り、内容としてはヘブンが怪談に取り掛かる展開となるわけだが、その創作意欲以前に、ヘブンの内面の葛藤やつまずきのようなものが深く描かれているところも本作らしいスポットの当て方だ。帝大で教壇に立つものの、53歳の今も決して「書く、人」になれているとはいえない状況の葛藤は、異人であることの孤独とともに、ヘブンもまたどこかまだ「何者でもない」存在であるのかと思えるところが印象的だ。

そんな帝大もクビになり、「オワリニンゲン」となる。そこに寄り添うような存在というか、理解者のような存在となるのが妻のトキや、リテラシーアシスタントとして長く支えた錦織(吉沢亮)でもなく、「わしと同じ匂いがする」と、巨額の借金を抱え、松野家をどん底に叩き落とした張本人となった朝ドラ名物(?)ダメ親父の司之介(岡部たかし)だったところこそが、このドラマらしい展開だ。

【ばけばけ】こうして『怪談』は世に送り出された——その先に待つ、せつなく美しい幕引きとは(画像4)

「ばけばけ」第117回より(C)NHK

とはいえ、司之介は共感ができるだけの存在であり、実際にヘブンを救うのは、やはりトキである。そういったところにこれまでのストーリーで、「何も起こらない」中でじっくりとつくりあげてきたキャラクターづくりのうまさを感じる。ヘブンが隠してきた現状を知っても、執筆に集中できるではないかと朝ドラヒロインらしいポジティブさで励ます。錦織からリテラシーアシスタントとしてのバトンを受け取ったトキが、ヘブンを導く言葉、それが、「私、読めるの話、書いてくれませんか」だった。

司之介の借金問題もあり、小学校もまともに通うことができなかったトキにとって、ヘブンが送り出した『日本滞在記』などは難しい内容、夫が何を書いているのかは本質的に理解できていなかった。
「ずっと読みたかった、パパさんのホン。だけん、学がない私でも読めるの本、楽しいの本、書いてくれませんか」

トキの本音が、「オワリニンゲン」と卑屈になるヘブンに力を与える。二人の結論は、そう、『怪談』である。リテラシーアシスタント・トキは、これまで母から聞かされた怪談をはじめ、さまざまな怪談を集めてきてヘブンに提供、こうして『怪談』は、世に送り出された。

【ばけばけ】こうして『怪談』は世に送り出された——その先に待つ、せつなく美しい幕引きとは(画像5)

「ばけばけ」第120回より(C)NHK

【ばけばけ】こうして『怪談』は世に送り出された——その先に待つ、せつなく美しい幕引きとは(画像6)

「ばけばけ」第120回より(C)NHK

『怪談』制作に取り掛かってから、次々に新たな怪談が通り過ぎていくさまは、ダイジェストを見ているかのようなスピード感ではあったが、ようやく「成し遂げた」ことは、やはりほっとする。

予告で流れた描写から、せつなくもまた美しい幕引きが待っていそうだが、この「何も起こらない」物語が、結果的に何かを残してくれたことを期待して最終週を待ちたい。

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