女性なら誰だってほしい、友だち以上恋人未満の「男ともだち」|人気小説『男ともだち』が映画化へ
試写を観て、涙したワケ
今回、自著初の映像化となる。自分の書いた小説が映像になるというのはどういう心持ちなのだろう?
「私は小説でしかできないことをやろうと思って書いているので、映画自体はとても好きなんですけど、正直、映画化には不安がありました。自分の好きな作品が映画化されるときもどちらかというとネガティブな気持ちになるので、そういう気持ちを自分の読者にも与えたくないと思ってしまうんです。でも今回、試写を観て、物語の核をつかんでくださっていると感じました」
試写を観て、千早さんは泣いた。
「ストーリーの結構早めの段階で、神名とハセオが電車の中で7年ぶりに偶然会うシーンがあるんです。それまでずっとかたい顔だった神名が、ハセオの顔を見て、すごく嬉しそうな安心した表情をするんです。その瞬間、『あぁ、神名がいる。神名がハセオに会えた』と心が震え、涙があふれました。説明がなくても、そこが神名にとって本当にやすらげる場所だということが一瞬で伝わってきたんです。私の書いた神名はちゃんと映画の中で生きている、と感じました」
『男ともだち』は、ふたりだけの世界を書きたかった小説だという。
「神名とハセオがかわした会話は、本当はもっとたくさんあるんです。ふたりの会話をたくさん書いてそれを切り取って小説に入れているので、使っていない会話や時間が私の頭の中にまだまだあるんです。それを、監督はちゃんとつかんでくれたと思いました。小説には電車の中でばったり会うシーンはないんですが、監督がこのシーンで、そういう見えない時間を表現してくれた、と胸が熱くなりました」
映画化してよかったと思えたもうひとつの理由が、「絵の美しさ」だった。撮影は京都、福井、広島で行われた。3つの街の空気感や、神名とハセオそれぞれの部屋のインテリアが、ふたりの感情とないまぜになって、言葉を超えた雰囲気を醸し出す。
「映画としての画が美しいこと、そして、大好きな画家の田中千智さんが、神名の描く絵を制作してくださったのがうれしかったです。映画内で使われる絵にリアリティと説得力がなかったら、厳しいなと思っていたので」
神名は、絵を描くことを生業にしている。千早さんの中で、「絵を描く人」は特別な存在だという。
「誰に依頼されなくても描くというのが本当の表現だと思うので、ファインアート(純粋芸術)への強いあこがれがあります。私の小説は依頼があって書いて世の中に出すのでファインアートではないし、言葉にしている時点ですでに違う。イラストレーターをしながら個展をやっている友達がまわりに結構いて、そういう人たちにとって本当に描きたい絵と依頼されて描く絵の間に葛藤はないのかとか、そういうことを考えたくて神名の職業を選びました」
実は京都で大学生活を送っていた頃、千早さんも絵を描き、小さなギャラリーで個展を開いたこともあるという。
「美大に行っていたわけではなく、ただ趣味で描いていました。その絵に文章をつけていたら、『文章のパネルだけもらっていいですか?』と言う人が多くて、『あ、自分は絵じゃないんだな』と悟ったんです(笑)」
いつもどこかで見ていてくれる人がいたら
「ファインアート」があるなら「ファインラブ」はあるのだろうか?
「私は結構シビアなので、金銭的に自立ができていない時期は自分の恋愛感情に慎重になったほうがいい気はします。経済的にひとり立ちしていない人が『好き』という気持ちを金銭に変換してしまうと、物理的にその相手なしには生きていけなくなる。好きな人に養ってもらわないと生きていけないという現状が恋心に変換されるのは、ちょっと避けたいですよね」
今は仕事を持ち、経済的に自立できる女性がふえた。しかし、結婚と仕事の両立がむずかしい時代には、経済力のある男性と結婚することが女性の幸せとされた。それは、結婚と愛情がイコールではないということだ。
「仕事があれば、ひとりで生きていける気がします。私自身は、精神的にはひとりでも大丈夫なタイプです」
では、純粋な「愛情」とは?
そんな漠然とした問いへ、「見ててやること」と核心を突く答えを返したのはハセオ。「何も考えんと、好きなところまで走ってけ。誰もおらんくても……見ててやるわ」と、神名に言葉をかける。その言葉は、クライアントワークに忙殺される日常から離れ、自分と向き合い、魂の作品を制作しようとする神名の背中をそっと押す。
人はひとりで奮闘し、孤独と焦燥、不安にさいなまれるときも、どこかで誰かが見ていてくれると思えば、また力が湧いてくる。
ハセオみたいな「男ともだち」がいたらいいな、と女性ならきっと誰もが思う。現実にはいなさそうだけど、どこかにいるかもしれない。自分に嘘をつくことなく、一生懸命やっていたら、そういう人が現れるかもしれない、そんな気持ちになれる映画だ。
【Information】映画『男ともだち』
京都で暮らすイラストレーター神名(松岡茉優)は、仕事もプライベートも順調に見えるが、30歳を目前に描きたいものを見失い、惰性や不毛な恋愛に逃げる日々を送っている。昔から自分勝手で人間関係に不器用なのは自覚している神名だが、出会った頃からなぜか自分のことを深く理解してくれる“男ともだち”ハセオ(成田 凌)からの思いがけない電話をきっかけに、7年ぶりに再会。あの頃も今も変わらない温度で接してくれるハセオと京都、富山、広島で過ごす。甘く、苦く、せつない“3つの夜”が神名の人生を大きく動かしていく。
出演:松岡茉優、成田 凌、井上祐貴、中島 歩、咲妃みゆ、三浦貴大、辻 凪子、中山求一郎、比喩根(chilldspot)、余 貴美子、池端慎之介
原作:千早茜『男ともだち』(文春文庫)
監督:三島有紀子
脚本:澤井香織 音楽:安川午朗
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:カズモ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/otokotomodachi/
公式X(旧Twitter)・公式Instagram:@o_tomodachifilm
男ともだち
千早 茜 著(文春文庫)
※詳細は下記のボタンより
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