女性なら誰だってほしい、友だち以上恋人未満の「男ともだち」|人気小説『男ともだち』が映画化へ
2014年に刊行された小説『男ともだち』が映画化され、11月6日から公開される。直木賞候補にもなった『男ともだち』は、今も根強い人気のロングセラー傑作小説だ。原作者の千早茜さんは、『しろがねの葉』で2023年に直木賞を受賞した小説家。著者作品初の映像化となる今回、小説に込めた思いや映画の見どころを伺った。
Profile
千早茜さん 作家
ちはや・あかね●1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2008年、第21回小説すばる新人賞を受賞。『魚神』(「魚」から改題)でデビュー。09年、同作にて第37回泉鏡花文学賞、13年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞、23年『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞。ほかの小説に『正しい女たち』『神様の暇つぶし』『西洋菓子店プティ・フール』『ガーデン』『ひきなみ』『赤い月の香り』『マリエ』『雷と走る』『燻る骨の香り』など、エッセイに『わるい食べ物』シリーズ、共著に『犬も食わない』(共著者・尾崎世界観)、『胃が合うふたり』(共著者・新井見枝香)、『眠れない夜のために』『しろとくろの偏愛』(共著者・西淑)などがある。
「男ともだち」は実在しうるのか?
「男ともだち」、それは友だち以上、恋人未満のあいまいで特別な存在。いつ恋人になってもおかしくない危うさを秘めつつ、その微妙なバランスをあえて保つことに快感がある。
映画『男ともだち』は、京都在住のイラストレーター・神名と、その「男ともだち」ハセオの物語だ。
ハセオは神名の大学時代の先輩。なぜかずっと気にかけてくれて、卒業後、離れ離れになっても遠くから見守ってくれている。会うといつも「おまえ」呼ばわり。口調はぶっきらぼうで、遠慮なくからかったりなじったりするけれど、その根底に愛情がにじむ。
そして、一見、仕事も恋愛も順調そうに見えるが、実は行き詰まりを覚えて立ち尽くす神名を、的確かつあたたかな言葉で勇気づける。そんな「男ともだち」と共に過ごした京都、富山、広島の「3つの夜」が、葛藤する神名をクリエイターとしての自立へと導いていく。
原作は直木賞作家・千早茜さんの『男ともだち』。14年の刊行当初から話題となり、現在も幅広い層の女性から支持される長編小説だ。
「この小説が直木賞候補になり、話題になったときに、ハセオという存在が非現実的だという意見がわりとあったんです。『女性の理想』、『少女漫画の都合のいい存在』みたいに言われたりもしていたので、実写化してハセオがめちゃくちゃ嘘っぽくなったらどうしようと心配でした。映画化の情報が流れたときもSNSでは『誰がハセオをやるのか』で持ち切りで、神名のことにはほとんど触れられていなかった。神名という人物像はリアルなんですけど、ハセオは現実にいなそうな、もしかしたら神名の幻想かもしれないくらいのイメージでしたね、小説では。実際に生身の人間が演じられるのかと案じていましたけど、生身のハセオでした(笑)。改めて役者さんってすごいなと思いました」と千早さん。
大学の映画サークルで出会って12年になるふたりが恋人同士だったことは、一瞬たりともない。神名には惰性で同棲を続ける恋人と、不毛な逢瀬を重ねる、妻子ある医者の浮気相手がいる。ハセオは富山で製薬会社のMRとして働き、恋愛は自由奔放。そんなふたりが危うい瞬間を経ながらもずっと男女の関係にならないことが、あいまいだけれど確かなつながりを生み、甘く、苦く、せつない感情が醸成される。
「男ともだち」はズルい存在?
千早さん自身には、「男ともだち」がいるのだろうか?
「学生時代に仲のいい男ともだちはいましたが、恋愛になるかもしれないという危うさはなかったですね。でも社会人になった後は、女性の人生のほうが入り組んでくるので、今は断然、女友だちのほうが多いです。美容や出産、更年期、仕事、家事との両立など話題が多岐に渡ってくるので、男ともだちとは話が合わなくなってくるんです」
そもそもは男女の友情の話ではなく、「お仕事小説を」という依頼だった。
「担当編集者が若い女性だったので、社会人になりたてで仕事をバリバリがんばろうとしているときに、恋人ってたまに邪魔だよねという率直な女子トークから始まって、お仕事小説がこういう形になったんです。私自身、この作品を書いた13年前は小説家としてデビューして3、4年くらいの、仕事をすごくがんばっている時期でした」
では、自分がバリバリ仕事したいときにどんな存在が支えになるのか?
「神名は29歳。女性って30代前半で、まわりから結婚はどうするの? 何歳で出産するの? など圧がかかって、早い段階で人生を決めていかないといけないじゃないですか。恋人がいれば、結婚や先の可能性を無意識のうちにもうっすら考えちゃう。でも、男ともだちなら先の約束をしているわけではないので、小説にも書いたように今だけのズルい関係でいられる。そういう人がいれば支えになるかなって。自分の人生を全部自分で決めていく中で、ちょっとした息抜きというか、オアシスみたいな存在になるのではないかと」
「男ともだち」との形のないあいまいな関係性。
「こういう関係性を書こうと思ったのは、私自身の状況も関係していたと思います」
千早さんは、この作品を書く直前に結婚をしている。
「当時、30代前半だった私は、結婚とは契約という形にはまることだという意識がありました。もともと生真面目だし、初めての結婚だったので。だから、こういうあいまいな関係を文章で、物語として残しておきたいという気持ちがあったのだと思います」
その後、離婚し、数年前に2度目の結婚をした千早さん。
「今は、結婚というものをもっと自由なものとしてとらえています。要は気の持ちようですね(笑)」
