60代「お金の使いどころ・削りどころ」エッセイスト 岸本葉子さんの備え方とは?
食や暮らしのエッセイが人気の岸本葉子さんは、40代、50代で、お金の使い方が大きく変化したそうです。40代はたくさんお金を使い、そのときの暮らしで精いっぱい。50代に入ると、もう消費尽くしたと心から満足を。そして60代に入った今、50代のうちに家のフルリフォームをすませておいてよかったとしみじみ感じています。岸本さんらしいお金の使い方や家計管理、貯めること・備えることとは?
目次
岸本葉子さん(エッセイスト)
年齢:60代
同居家族:なし
住まい:マンション(分譲)
私の家計管理|消費のサイズ感をつかむのがコツ、学生時代のやりくりがベースです
もともと、「お金を使いたい」という思いがあまりないタイプです。大学時代から自立し、授業料は奨学金を利用、アルバイトで生活費をまかなっていたせいかもしれません。自分が使えるお金の額をなんとなく把握し、その中でやりくりする習慣が身につきました。「今月は苦しいけれど、銭湯代の200円だけは別にしておこう」というようなことをよくしていたものです。
だから、今でも家計簿はつけていません。クレジットカードの利用明細をチェックし、金額と項目を把握しています。
40代以降は、お金と暮らしに対する考え方が少しずつ変化してきたと実感。40代はお金の出入りが大きくて、大規模の家計を営んでいたなあと思います。家具や宝飾品にもたくさんお金を使いました。老後を考えるより、そのときの暮らしで精いっぱいだったと思います。
50代になると、そういったものにはあまり興味がなくなりました。自分の趣味や好みに対して素直になり、「もう消費し尽くした」と心から満足できたのです。ただ、家のリフォームにだけはお金をかけました。老後に安心して暮らすための、いわば一大投資。親を介護するなかで学んだヒートショック対策、車いすになっても移動しやすいようにドアを引き戸にするなど、心地よく整えました。
還暦を迎えた今、50代のうちにリフォームをすませておいてよかったとしみじみ感じています。年金をもらうような年になってからは、貯蓄を大きく減らすのが怖くて思い切れなかったかもしれません。
食の工夫|買い物は週1回。余計なものは買わずにすみます
ひとり暮らしのわりには、エンゲル係数が高い家計かもしれません。でも必要以上の量を買わない、余計なものを買わない、食材を余らせないなどの工夫はしています。スーパーに行くのは週に1回。あちこち買い回りはせず、信頼している近所のスーパーへ。無農薬野菜を選んでいるため少し値が張りますが、安心できるうえにおいしいので納得して購入。素材そのものの味がとてもいいので、余計な調味料を買わずにすんでいます。
炒め物の合わせ調味料、○○の素といった便利な商品やドレッシング類も、わが家には置いていません。さ・し・す・せ・その基本調味料で十分おいしい食事が作れています。料理することが好きなのも幸いしています。
健康のためにも肉・卵を控えており、野菜と魚がメイン。添加物が少なくておいしい魚が近所で手に入るので助かっています。まとめ買いした魚は、干物は冷凍したり、切り身は調味料に漬けて保存したり、1カ月の食材費はトータルで5万円ほどです。
自宅での食事が好きなので、コロナ禍ということがなくても、外食やお酒をいただくことはあまりしません。仕事以外で人と会ったり、誘い合わせてどこかへ出かけたりすることもめったにありません。
でも、「老後に備えて友だちを増やさなきゃ」という焦りもまったく感じていないんです。気心の知れた人たちと連絡をとる、俳句など同じ趣味を持つ人たちと趣味の時間を共有する。それで十分だと思っています。
約20年前に虫垂がんが見つかり、入院生活を送りました。それ以来、食生活には特に気を使うように。味噌、納豆など発酵食品を意識してとり入れ、ご飯は玄米。一汁三菜を心がけています。品数が多くても、日本の伝統的な食卓はそれほどコストはかかりません。
失敗しながらも20年以上続けています。冷蔵庫で漬けているため、気軽に作れてにおいも気になりません。塩も少なくてすむのでたくさん食べても大丈夫。料理する時間があまりとれないときは、ご飯と焼き魚とぬか漬けですませることも。それでも十分満足できます。
私らしいお金の使い方
コロナ禍以前は店員さんと相談しながら服を買うのが好きでした。でも外出自粛中にクローゼットを整理したら気持ちがすっきり。既製品に合わせることはないと気づき、今は大好きなリバティプリントの生地を購入して好きなサイズ、シルエットでセミオーダー。自分にぴったりの服が作れるうえ、百貨店で買っていたころよりも安くすんでいます。
父を在宅介護する過程で、筋肉の衰えが老いを加速させることを痛感。加圧のパーソナルトレーニングに通っています。楽しく体を動かせるダンスフィットネスレッスンにも週3回ほど参加。仕事の頭をリセットでき、深く眠れるようになっていいことだらけです。
こだわりの部屋は暮らしの質を上げてくれる
2LDKのマンションをフルリフォームしたときは、金額ではなく自分が本当に気に入るかどうかで内装を決めました。昭和初期の古い洋館のような住まいをイメージ。家具も同じで、内装やもとからあるお気に入りに合わせてセミオーダーしています。自宅は仕事場でもあるので、居心地よく過ごせるよう思いきってお金をかけました。
壁紙の一部には、19世紀のイギリス人デザイナー、ウィリアム・モリスの絵柄を取り入れました。モリスの絵柄はクッションやスツール、玄関マットにも採用。大好きなデザインを毎日眺められるのは幸せなこと。気分が上がります。
以前から気に入っていたテーブルに合わせ、同じ素材でサイドボードやテレビ台をセミオーダーしました。お金はかかりましたが、そのおかげで統一感のある空間に。
食器は40代でたくさん買いそろえたものが今も現役です。新しい器を欲する気持ちはなく、拡張期は過ぎたと実感。今あるものを長く大切に使いたいと思っています。
貯める・備える|公的なサポートにもどんどん頼り、資金を準備していきたい
株式投資は自分に合わない気がするけれど、間取り図を見るのが好きなので不動産投資をしています。現在は賃貸マンションを2部屋所有。一部借り入れが残っていますが、家賃収入でプラスになっています。
投資は自分自身が興味を持てるかどうかが大切。熱心に情報収集し、手間をかけられる分野を選ぶことが、成功への近道だと思っています。
毎月決まった給料があるわけではない個人事業主の身。収入を前提に家計を組み立てることができません。だから、支払いは「あるとき払い」。税金などの大きな支払いは、お金があるときに一括払いすることで漏れがないよう気をつけています。
30歳で国民年金基金に加入し、55歳から年金が支払われる個人生命保険にも加入しました。当時は、将来に対する不安をお金で解決しようとしていたのです。
60歳になり、国民年金基金の引き落とし通知が来なかったことで「もうもらう側なんだ」と実感。あわててねんきんネットに登録し、今からでも受給額を増やす方法はないか自治体の年金窓口に相談に行きました。
結果、国民年金をあと5年間任意加入することに。親身になってもらえたことが心強く、「まずは公的な支えを大切にしよう」と強く感じた出来事でした。老後資金というと、年金は期待されておらず他の秘策を求めてしまいがちです。でも公的年金や健康保険、自治体など私たちがすでに持っている資源はおろそかにしないようにしたいもの。それらを最大限に生かし、他の準備も進めていきたいと思っています。
※この記事は『素敵に暮らす大人のお金のコツ』主婦の友社編(主婦の友社)の内容をWeb掲載のため再編集しています。情報は掲載時のものです。
※この記事は2024年7月23日に文章構成を変更しました。
エッセイスト
岸本葉子
会社勤務、中国留学を経て執筆活動に入る。食や暮らし、旅がテーマのエッセイを多く発表。同世代の女性を中心に広く支持を得ている。
会社勤務、中国留学を経て執筆活動に入る。食や暮らし、旅がテーマのエッセイを多く発表。同世代の女性を中心に広く支持を得ている。