『愛の不時着』セリが頬張って食べる仕草の意味とは? 韓国通の黒田福美さんが解説
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ゆうゆうtime編集部
韓国ドラマで食事シーンが出てくると、こちらまでおなかがすいてくるのが不思議です。『愛の不時着』に出てきた数々の食事シーンを、韓国通の黒田福美さんに解説してもらいましょう。韓国料理に欠かせないのは汁物。そして、焼き肉の食べ方にも、文化の違いがみられます。韓国旅行の前にはぜひ参考にしてくださいね。(ネタバレあり)
スープなしではご飯は食べられない
韓国料理にはスープ料理が欠かせません。ドラマのなかでも、持ち手が長い韓国のスプーンを使って汁物を食べるシーンがよく出てきますね。
『愛の不時着』の汁物登場シーンを追ってみましょう。
まず2話では、リ・ジョンヒョクがユン・セリのために作ったとうもろこし麺。麺を手打ちするところから丁寧に調理していく様子が印象的でした。
9話では、ジョンヒョクの実家にセリが監禁されていたシーンで、お膳にはテンジャンチゲがおいしそうに煮えていました。監禁された状況にもかかわらず、セリが大事にされている様子がうかがわれる演出でしたね。
12話では、ソ・ダンが、具合が悪くなったク・スンジュンのもとに、お粥を作り、パンチャン(おかず)を運びました。
16話では、兵士たちが国家情報院で尋問を受けたときに食べていたのが、簡素ながらご飯とチゲの定食でした。
「韓国人はよく『スープなしではご飯を食べられない』と言います。それほど韓国食は汁物が充実しているということですね」と黒田さん。
口いっぱいに頬張る幸せ
『愛の不時着』では、セリが口いっぱいに食べ物を頬張るシーンが何度もありました。
「日本人にとっては、はしたないと感じられることもある、頬張るという行為ですが、韓国人にとっては、口いっぱいに頬張ること、旺盛な食欲をあらわにすることは、決してはしたないことではないのです」
むしろ、頬張って食べることは、「食べる福に満ちた姿である」と、肯定的に受け取られるそうです。
匿われているジョンヒョクの家で、塩つぼに保存してあった豚肉を炭火焼きしてもらい、次々に口に運ぶセリ。
「半分しか食べないの」と言いながら、砂糖をまぶしたおこげを頬張るセリ。
停電で停車するという汽車の中で、ゆで卵を頬張るセリ。
人目もはばからず、口いっぱいに頬張るセリは、チャーミングですらありました。その食べっぷりに、黒田さんは、韓国人がよく口にする「チャールモッコ チャールサンダ」という言葉が思い浮かんだと言います。
「直訳すると、『よく食べて、よく生きる』になるのですが、『たらふく食べて、よい暮らしをしている』、つまり、金持ちとか富める者という意味でよく使われる言葉です」
「セリの場合は、南にいたときは少食で、3口しか食べない食の細いお姫様と言われていたという設定でしたね。思いがけない北の暮らしで、ご飯を一生懸命食べるようになり、生きることへの意欲、心と体の健康を取り戻した。セリが口いっぱいに頬張る姿には、『セリはよく食べて、よく生きる』、そんな意味も込められているかもしれません」
焼肉は葉っぱで包んで一口で
ひと切れの小さいお肉でも、香味野菜やサンチュで包んでいくと、げんこつくらいの大きさになるのですが、「これを一口で口に入れて食べるのが正解です」と黒田さん。
「決して二口、三口に分けてかじったりしません。韓国人はみんなこの葉っぱの塊を口の中に全部押し込んで、モグモグしながらいただきます」
こうして幾種類もの味を一度に口に入れて、噛みしめるごとに口の中に広がるハーモニーを楽しむのが、韓国流の食文化。
「頬張って食べるというのは、口いっぱい、おなかいっぱい食べられる幸せの象徴なんです。ぜひみなさんも韓国に行ってご飯を食べるときは、ひと口に頬張って食べるおいしさを実感してください」
韓国では、少しずつちまちま食べる食べ方は、「物惜しみしていてケチくさい」と映るのだそうです。とりわけ男性が大食するのはいいことで、健康で頼もしい、立派な証なのだとか!
※この記事は『「不時着」しても終わらない』黒田福美(主婦の友社)の内容をWeb掲載のため再編集しています。
※2022年10月21日に配信した記事を再編集しています。
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俳優・エッセイスト
黒田福美
桐朋学園大学演劇科卒業。俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。80年代から韓国への往来をはじめ、30余年にわたって、放送、著作物、講演などを通して韓国理解に努めてきた。2011年には韓国政府より「修好章興仁章」を受勲。2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会理事、韓国観光名誉広報大使、「日韓お祭り」実行委員をはじめ、麗水エキスポ広報大使、京畿道観光活性化広報大使、大邱、浦項などの広報大使を務める。韓国関連の著書、翻訳など多数。『ソウルマイハート(1、2)、『ソウルの達人』シリーズ、『隣の韓国人 傾向と対策』、『韓国ぐるぐる ソウル近郊6つの旅』、『それでも、私はあきらめない』、『黒田福美の韓方案内』、『「不時着」しても終わらない』など。
桐朋学園大学演劇科卒業。俳優として活躍する一方、芸能界きっての韓国通として知られる。80年代から韓国への往来をはじめ、30余年にわたって、放送、著作物、講演などを通して韓国理解に努めてきた。2011年には韓国政府より「修好章興仁章」を受勲。2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会理事、韓国観光名誉広報大使、「日韓お祭り」実行委員をはじめ、麗水エキスポ広報大使、京畿道観光活性化広報大使、大邱、浦項などの広報大使を務める。韓国関連の著書、翻訳など多数。『ソウルマイハート(1、2)、『ソウルの達人』シリーズ、『隣の韓国人 傾向と対策』、『韓国ぐるぐる ソウル近郊6つの旅』、『それでも、私はあきらめない』、『黒田福美の韓方案内』、『「不時着」しても終わらない』など。