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平安時代の歌人・小野小町。本当はどんな女性だったのか? 謎多き生涯を髙樹のぶ子さんが描く

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ゆうゆう編集部

今の年齢だからこそ小町の人生に寄り添えた

ところで、髙樹さんは2020年に『小説 伊勢物語 業平』を上梓。小町とほぼ同じ時代を生きた在原業平の物語だ。『小説 小野小町 百夜』は、その2作目といえる。なぜ、平安時代だったのだろう。

「平安時代を選んだのは、現代に脈々と続く日本の文化や美意識の礎が完成した時代だと思うからです。それまでの中国文化の影響から離れ、かな文字をはじめ、和歌、香道、衣装など、大和の文化が花開いた時代です。武力でものごとを解決していく時代に入る前の、日本の歴史の中で最も美しい時代だといえると思います。

そして、そんな平安時代の前期にはどんなことがあったのかと思いをめぐらせていくと、業平と小町に行き着くのです。小町が生きた時代は仁明天皇の治世。仁明帝は体が弱く、それゆえに権力を誇るのではなく、文化に力を注ぎました。もののあはれがわかり、その感性が文化を育てたともいえます」

髙樹さんは、若い頃から「70歳を過ぎたら古典を題材にした小説を書こう」と決めていたのだという。

「古典というのは、書いた人も登場人物も、関わるすべての人がすでに亡くなっているわけです。そこには死がターゲットとして見えてきます。私の年齢になると、死が見えてきて、死を意識するということは悲しいことではありません。そこにたどり着くまでの時間を考える豊かさにつながっていくと思うんです。だから古典は、この年代に入ってからでないと触っちゃいけないものだと、ずっと思っていました。

この小説を、若い頃に書いていたら、とんがった小町しか書けなかったでしょうね。この年齢になったからこそ、老いた小町にも寄り添えたのだと思います。『百夜』の百には『大きな寿』という意味があるそうで、小町の人生すべてが寿ぐ夜であったとの思いを込めました」

3年後には紫式部、さらに3年後には清少納言の物語を書きたいという。

「業平や小町の歌は、後の時代に藤原俊成や定家が写し取ったり、評したりして中継ぎをしてくれたからこそ、現代にまで残りました。私の小説も、この先の時代に、誰かが古典を読み返してくれるときの中継ぎになれたら嬉しいですね。

人間の体は滅びていっても、思いは言葉にすることで滅びません。そのことを小町はよく知っていたから、苦しく実らない思いも歌に託しました。それが1100年も生きている。その思いを受け止めて味わっていただけたらと思います」

PROFILE
髙樹のぶ子

たかぎ・のぶこ●1946年山口県生まれ。
80年『その細き道』で作家デビュー。84年『光抱く友よ』で芥川賞、95年『水脈』で女流文学賞、99年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞、他、『トモスイ』で川端康成文学賞、『小説 伊勢物語 業平』で泉鏡花文学賞、毎日芸術賞など多くの賞を受賞。2009年紫綬褒章受章、18年文化功労者に。

※この記事は「ゆうゆう」2023年7月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。


撮影/富本真之 取材・文/志賀佳織

ゆうゆう2023年7月号

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