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【言葉の力】禅僧 枡野俊明さんが教える、正しい言葉の選び方

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ゆうゆう編集部

親しい間柄だからこそ、つい言ってしまうことがあります。何気ない一言に傷つくこともあります。枡野俊明さんは、「言葉は諸刃の剣」とおっしゃいます。新刊『悩みを手放す21の方法』(主婦の友社)から、「言葉を選ぶ」大切さについて教えていただきましょう。

第1回はこちら

「悩みを手放す方法」とは? ついてない1日が清々しい1日に。枡野俊明さんに学ぶ

第2回はこちら

寝る前に【完全なオフモードになる方法】を、禅僧 枡野俊明さんに聞く

プロフィール
枡野俊明(ますの・しゅんみょう)
1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺第18世住職。庭園デザイナー。多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺で修行。「禅の庭」を通して国内外から高く評価される。芸術選奨文部大臣新人賞受賞、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。2006年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。『禅僧が教える不安に負けない心の整え方』(主婦の友社)など著書多数。

誰かと話をしたあとで、「言わなければよかった」「もっと他の言い方をすればよかった……」と後悔したことはありませんか。
言葉というのは不思議ですね。傷ついてうつうつとしてしまう言葉もあれば、その一言に心を打たれて、人生の支えになるような言葉もあります。

『悩みを手放す21の方法』から、「言葉を選ぶ」ことの大切さを、枡野俊明さんに教えていただきます。
「言葉は諸刃の剣」。
私たちは正しい言葉を使えているでしょうか。

言葉は諸刃の剣。言ってから悔いても遅いのです

最近、テレビなどを見ていると若い人の言葉がとても気になります。街頭インタビューなどで、政治的、社会的な意見を求められているにもかかわらず、「〇〇でぇ〜」「っていうか〜」など、友達どうしのように話すのはいかがなものでしょう。時と場をわきまえた行動規範が失われてきているのが、とても残念です。

ひるがえって、私たち大人は正しい言葉を使っているでしょうか。年齢とともに敬語を使うことは上手になったかもしれません。けれど家族や親しい友人、職場で若い人たちに向けて発する言葉は適切でしょうか。

親しい間柄であればあるほど、深く考えずにパッと言葉を発しがちです。それがやさしい言葉ならよいのですが、「売り言葉に買い言葉」というように、ケンカごしの会話になってしまうことも少なくありません。

言葉とは、いったん口から飛び出してしまうと取り消すことができません。言葉を消せる消しゴムはどこにもないのです。「言いすぎてごめんね」と謝ることはできますが、言葉という刃物が傷つけてしまった相手の心や二人の関係性が、元どおりになるとは限りません。言葉は諸刃の剣なのです。

先日、コロナ禍で大打撃を受けた飲食店のオーナーさんからこんな話を聞きました。親しい友人に最近の苦しい状況を話したところ、相手から「こんなご時世だからしかたがないよ」と言われ、ひどく傷ついたといいます。相手に悪気がないことはわかりますし、確かに正論かもしれません。この時代、苦しい立場に立たされた人は数えきれないでしょう。けれど、苦しさは人と比較して判断するものではありません。今この瞬間のつらい気持ちをわかってほしくて話しているのです。

言いたいことを思いついたままに話すのではなく、その言葉を聞いた人がどう受け止めるか、そこに思いを寄せてから話すことは、大人としての最低限の義務ではないでしょうか。禅には「愛語(あいご)」という言葉がありますが、道元禅師は「慈しみの心から生まれる愛情のこもった言葉は、天地をひっくり返すほどの力がある」と話しています。

あなたなら、先ほどのオーナーさんにどんな言葉をかけるでしょう。私も悩むと思います。それでも、「さぞかし不安なことでしょうね。でもあなたなら乗り越えられると信じています。ただし無理をせず、お体にはどうぞ気をつけて」そんなふうに、相手の心に寄り添う言葉を伝えることができればと思います。とっさにうまい言葉が探せないこともあるでしょうけれど、愛のある言葉に込めた思いは、きっと相手に届くに違いありません。

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不瞋恚戒
(ふしんにかい)

仏教における十の戒めのうちのひとつで、怒りや恨み、憎しみなどを持ってはいけないという戒め。怒りや恨みなどの感情は自分を見失わせ、正しい判断ができなくなる。それが相手の怒りを生み、争いの火種となる。

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