不動産のプロ・畑中学さんに聞く!後悔しない【60歳からの住み替え】とは?
子どもの独立や夫との死別、家の老朽化などをきっかけに、住み替えを考える人が増えています。「ですが、焦って売却するのは失敗のもと」と話す畑中学さんに、プロがすすめる失敗しない住み替えについて伺いました。
目次
お話を伺ったのは
畑中 学さん
はたなか・おさむ●武蔵野不動産相談室株式会社代表。不動産コンサルタント。宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスターなどの資格をもち、年間約300件の不動産売買の相談に応じている。常に顧客のメリットを優先し、問題解決に当たる姿勢が好評。
住み替えたい自分の強い気持ちと住宅維持費の増加が重なったら売りどきサイン
老後を快適に過ごすために、住み替えを考える人が増えている。長年住んできた自宅の売りどきサインは、どう見極めればいいのだろう? 不動産コンサルタントの畑中学さんは、「『気持ち』と『お金』、どちらがクローズアップされてくるかで見極め方は違います」と話す。
「『気持ち』でいえば、自分の人生を一新して新たな家や土地で暮らしたいと考え、今の自宅に執着しなくなったときが売りどきのサインです。ただし、子どもの独立や夫の死に直面して、寂しさだけで転居を決めるのは失敗のもと。次の人生をどこでどう生きたいか、自分が主人公のライフプランを立てられたとき、納得のいく住み替えにつながります」
一方、「お金」については、耐震工事やリフォーム、建て替えなど、自宅に高額な維持費がかかるようになったときが当てはまる。
「その場合は、元気なうちに早めに家を売却して住み替えておくと安心です。ただし、急に補修費用がかかるようになり、『お金がないから』と焦って売却に走るのはNG。ひとまず落ち着いて、さまざまな可能性を検討しましょう。リバースモーゲージ(次ページ参照)を利用して、自宅を売却せずにリフォーム資金を借りるという方法をとるのも一案です」
「気持ち」と「お金」の両方が重なったら、まさに売りどき。どちらか一方だけなら、ひとまず資料を集めたり部屋を整理したりしよう。
売買を依頼する不動産業者については、「最初から1社に決めず、大手、中堅、個人と規模の違う数社に相談してみましょう」と、畑中さん。
「大手チェーンは地域をまたいで幅広く物件を紹介してもらえ、補償サービスも充実しているのがメリット。半面、大勢の顧客がいるので、ひとりにかける時間が少なくなりがち。一方、個人の会社は補償サービス額は大手より見劣りしますが、時間をかけて話を聞いてもらえます。いくつか当たるうちに、自分の望む対応がわかって絞り込めてきます」
不動産売買は、相談から売買成立までひとりの営業マンが対応するシステム。営業マンとの相性も大事で、「話が合わない」「希望と違う物件ばかり紹介される」などピンとこないときは、遠慮せず別の人に代えてもらう、別の会社を当たる、というのがいいそうだ。
住み替える前にお試し期間を設けよう
「住み替え先を探すとき、特に女性が失敗しやすいのは、お金より自分の思いを優先してしまうことです。事前に『自宅の売却益の範囲で満足できる家を探す』と決めたのに、いつのまにか『最後の住まいだから』と、どんどんグレードアップしてしまう。結果、予算がオーバーして老後資金が乏しくなり、子どもに親子リレーローン(次ページ参照)を頼もうとして、親子関係にヒビが入るケースも珍しくありません」
二世帯住宅も根強い人気だが、孫や子どもと暮らせる喜びだけで一気に進めるのは危険!
「親子ともお互いの生活に干渉しない関係ならいいのですが、過干渉ぎみな場合、トラブルになりがちです。実際、仲よし母娘が二世帯同居を始めて、母親が孫の教育に口を出したため娘との関係が悪化、同居を解消したばかりか、親子の行き来さえなくなったケースもあります。そうなると、二世帯住宅は一般の家より売却しづらく、売れても価格が下がるため、老後資金を大きく減らしたり、住宅ローンが残って新しい家が建てられなくなったり、経済的な打撃も免れません」
二世帯住宅に限らず、失敗するとダメージが大きい住み替え。①今、最善と思っても将来はどうか、②今後どんな問題が想定されて、起こった場合どう対応するか、この2つを考えて動くことが必要不可欠だ。
「おすすめは、自宅はそのままにして、しばらく賃貸に住んでみる方法です。二世帯同居なら、借家で子ども家族と一緒に暮らしてみる。田舎へ移住したいなら、希望する土地で部屋を借りてお試し移住をしてみる。しばらく暮らせば、やっていけるかどうか見極めがつきます。本格的に住み替えるのは、その後でも遅くありません。
『家賃がもったいない』と言う人もいますが、何千万円もかけて家を建て、失敗したときの損失に比べたら、家賃くらい安いものです」