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「手術から目覚めたら『お母さん』と『わかんない』しか言えなくなっていた」清水ちなみさんが病気を経て、今思うこととは?

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ゆうゆう編集部

やりたいことがいっぱい。失敗したら次がある!

術後、失語症だけでなく右目の視野が大きく欠け、右足もうまく動かず、右手も震えて握力はゼロに。とはいえ体は徐々に回復し、1カ月後には転院、リハビリに励む毎日が始まる。当時、小学2年生の娘、中学1年生の息子にも手伝ってもらいリハビリを続けた。

「服のファスナーの開け閉めができるようになったのは2年後、髪をゴムで縛れるようになるまで5年以上。現在も右手の機能は元どおりになっていませんが、料理も洗濯も掃除も買い物も、主に左手を使って不自由なくこなせるようになりました。苦労はあるけれど、こんなこともあるかな、これでいいんだって思います。あわてず、日常の自分を俯瞰している感じです」と、穏やかな笑顔で話す。

「俯瞰」

「日常が戻ってきて、苦労はあるけれど楽しく生活している私を、どこか俯瞰している感じがあります」。何かあっても「あわてなくていい。こんなこともあるよ。これでいいんだ」と思えるのだとか。

「語彙は病気の前の30%ほど。頭に浮かぶことはたくさんあるのに、言葉にできないことも。でも、これまでで一番、今が元気」と明るい。

さまざまな挑戦も続けている。洋裁教室に通いミシンでワンピースや夫の財布を縫い、左手で弾けるピアノ曲を練習。ヨガも。

「やりたいことはどんどんやる。失敗したら次がある! チャレンジ、チャレンジです」

病気を経て、「固定観念から解き放たれた」とも言う清水さん。

「病気後、私には月が青く見えます。真ん中が黄色で外側が青い。病気をする前よりずっと美しく見えています。月は白かクリーム色と思われていますが、脳は一人ひとり違うので見えている色も違うのでは。思い込みにとらわれずにいたいですね」

「マーヤのヴェールを剥ぎ取るんだ!」

言葉のリハビリにテレビドラマをたくさん見ているが、その一つ「初恋の悪魔」の中のセリフ。マーヤのヴェールとは「思い込み、幻想」のこと。「思い込みにとらわれない、というこのセリフが心に残りました」

PROFILE
清水ちなみ

しみず・ちなみ●1963年東京都生まれ。
青山学院大学文学部卒業後、OL生活を経てコラムニストに。87年、『週刊文春』の連載「おじさん改造講座」でデビュー。会社に生息する「おじさん」の面白すぎる行動や生態を紹介し、男性読者中心だった『週刊文春』に女性読者を呼び寄せた、といわれるほど評判を呼んだ。
『大失恋。』他、著書多数。

『失くした「言葉」を取り戻すまで 脳梗塞で左脳の1/4が壊れた私』
清水ちなみ著

脳梗塞から10年後、季刊誌『週刊文春WOMAN』から「病気の体験を書きませんか」というオファーを受け、「原稿を書くのもリハビリ」と、「不安ながら勇気を出して」執筆。2023年、17年ぶりの新刊書となる。「頑張るのは好きではない」と言う清水さんが、夫や子どもたちに支えられ、前向きにリハビリに取り組む姿は感動的。

文藝春秋 1650円

※この記事は「ゆうゆう」2024年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/田﨑佳子

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ゆうゆう2024年2月号

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