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夜中に読むのは危険!? ラーメンが食べたくなる【柚木麻子さんの最新小説】第171回直木賞候補作

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ゆうゆう編集部

誰の役にも立たない店が存在することの安心感

本書にはいろいろな「嫌なヤツ」が登場するが、一方で、嫌なヤツに向き合う女性たちを見守り、支える人も描かれる。第5話「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」はそんな物語だ。ちなみに「マダムショップ」とは、商店街やホテルの地下などに1軒は必ずある、謎の婦人雑貨店のこと。

「誰が買うの?っていうような、キラキラしたバッグやチャームがずーっとおいてあって、値段がけっこう高い。売れているとも思えないし、客も入っていないのに、なぜか潰れないんですよね」

疑問を疑問のままにしないのが柚木さんだ。情報をもっているのは商店街のすし屋だと考え、マダムショップがあるいくつかの商店街のすし屋に通い、店主と顔見知りになって情報を聞き出した。

「その結果、ほぼすべての店がその地域の土地をたくさん所有している方の親族が経営しているとわかりました。単なる税金対策(笑)。売れなくていいんですよね」

でも、それで終わらせないのが作家魂。「あの店にひそかな任務があるとすれば、いったい何?」「もしあの店で誰かが何かを買ったら、どうなる?」。そんな妄想を膨らませ、物語を生み出した。

「コロナ禍が明けて渋谷の街に久々に行ったとき、街が近未来の都市みたいになっていて驚きました。一方で、昔からある喫茶店も残っていた。しかも、レトロというより単に古いだけで、やる気もないしコーヒーもまずい。そんな『マダムショップ的な店』が残っていることが、私はうれしかったんです。欲しいものばかりのキラキラした空間って、逆に息苦しいなぁって」

そんなふうに、世の中や人へのまなざしが変わってきたことを実感していると柚木さんは言う。42歳という年齢のせいかもしれない。

「40代って、上下30歳差の人と話せるんですよ。話題? 困らないですよ。芸能人やドラマとかの話をすると『え? 昔はそうだったの?』ってめっちゃ盛り上がります。先日、母(ゆうゆう世代)に『ジュリーが田中裕子さんと再婚したとき、いかにショックだったか』を聞かされて、目からウロコでした。私は若い世代に『13歳の頃の今井絵理子議員』について語って、驚かれています(笑)」

鋭い観察眼とコミュニケーション力から生まれた痛快な短編集だ。

写真提供/新潮社

PROFILE
柚木麻子

ゆずき・あさこ●1981年東京生まれ。
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、同作を含む『終点のあの子』で小説家デビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。
近著に『らんたん』『オール・ノット』など。

※この記事は「ゆうゆう」2024年8月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/神 素子

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