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【極悪女王】一番好きなのは「クレーン・ユウ」の物語 昭和の熱気と、令和の優しさが混在する傑作なのだ!

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田幸和歌子

プロレスに興味がない人も、もちろん大好きな人も、イッキ見した人が多いことでしょう。話題の「極悪女王」は、Netflixで独占配信中です。数多くのドラマレビューを執筆するライター田幸和歌子さんに、「極楽女王」について語っていただきます。
※ネタバレにご注意ください

▼田幸さんの「虎に翼」のレビュー一覧は▼田幸和歌子の「今日も朝ドラ!」虎に翼

「ダンプ松本」は、実は素顔は優しくおとなしく——

この夏~秋にかけて、ドラマの話題と言えば、9月27日に終了した朝ドラ『虎に翼』か、Netflix配信の『地面師たち』、その流れをそのまま引き継いだかのようなNetflix配信の『極悪女王』が寡占状態になっている。

「あれ、観た?」が世代や性別を超えた共通言語として交わされることも、テレビ離れが叫ばれて久しい近年では稀で、その現象が昭和の光景のようでもある。

鈴木おさむ脚本×白石和彌監督の『極悪女王』は、1980年代にカリスマ的人気で女子プロレス旋風を巻き起こした悪役レスラー、ダンプ松本の知られざる人生を描く物語。そもそもこの作品で描かれる女子プロレス自体、80年代にはテレビのゴールデンタイムに放送されていたほどの人気で、興味の有無にかかわらず、当たり前に身近にあったことなど、若い世代にとってはピンとこないだろう。

本作では、そうした当時の「熱狂」が再現されつつ、その熱狂の裏にあった物語が描かれている。リングの上では対戦相手にフォークを突き刺し、頭髪を剃り、バラエティ番組では竹刀をぶんぶん振り回し、怒鳴り、睨み付け、襲い掛かる——そんなダンプ松本こと松本香が、実は素顔は優しくおとなしく、良い人だという話を聞いたことのある人は多いだろう。

しかし、そのルーツや孤独、「ダンプ松本」誕生のきっかけ、友情の物語を知ると、誰もが愛おしくなってくる。

小動物が猛獣に化ける瞬間に、高揚感を覚えるはずだ

演じたのは、ゆりやんレトリィバァ。貧しい幼少期、クズ父と、別れようとしない母の反対を押し切り、ビューティ・ペアのジャッキー佐藤(鴨志田媛夢)への憧れを抱いて、全日本女子プロレスの門を叩いた香。しかし、同期が次々にデビューしていく中、香は試合にも出られず、巡業カーの運転手をさせられたり、覆面レスラーのなりすましをさせられたりと、スターへの道のりは遠い。

そんな中、与えられた役割は「ヒール」だったが、優しすぎてどうにもヒールになれない松本は、その鈍臭さも含めて可愛いのだが、同期との決別や家族の裏切りなどにより、「ダンプ松本」として覚醒。正直、途中までは普通にゆりやんに見えたが、明確に「ダンプ松本」になる瞬間——小さくか細い声はドスのきいた声に、顔や体からは強さと自信が溢れ出し、小動物が猛獣に化ける瞬間には、誰もが高揚感を覚えるはずだ。

さらに、本作が非常にいまどきなのは、主人公の物語に終始せず、同期一人一人を丁寧に描いていること。女子プロの世界に入ってきたのは、それぞれ複雑な家庭環境などにある、行き場のない女の子たち。なかでも話題をさらったのは、「クラッシュ・ギャルズ」の二人。ライオネス飛鳥を圧倒的な身体能力の高さで華麗に演じきった剛力彩芽と、10キロも増量し、劇中で坊主頭になるのも厭わず、長与千種役に全力でのぞんだ唐田えりかだ。

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