▼前回はこちら▼

お話を伺ったのは

天野惠子先生
1942年愛媛県生まれ。内科医。医学博士。静風荘病院特別顧問。日本性差医学・医療学会理事。NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。
1967年、東京大学医学部卒業。東京大学講師をへて94年、東京水産大学(現・東京海洋大学)保健管理センター教授・所長に就任。99年、日本心臓病学会のシンポジウムで性差医学の概念を日本ではじめて紹介し、注目を集める。2001年、鹿児島大学医学部附属病院の日本初の女性専用外来創設に尽力、2002年、千葉県立東金病院副院長となり(千葉県衛生研究所所長を兼任)、公立病院初の女性外来立ち上げに貢献、診療を担当した。09年より埼玉県・静風荘病院にて女性外来を担当。近著に『81歳、現役女医の転ばぬ先の知恵』(世界文化社刊)。3人の娘の母。

加齢で薬の副作用からくる強い症状が出現！　80代の壁を痛感

心身ともに充実していた60代。
体の衰えを感じ始めて野菜スープ、筋トレを習慣にした70代。
80代に入ると、これまでに経験したことのない不調に襲われたと、天野惠子さんは話します。

「野菜スープを飲んで安定していた血圧が高め（収縮期血圧1400㎜Hｇ）になりました。ただそれは日中に受けた健康診断での値だったので、さほど気にしていなかったのです。ところが1カ月後に自分で血圧を測ったら200㎜Hｇを超えていて、びっくり。何が原因だろうと考えてみて、ふとそのときに飲んでいた漢方薬のせいだったと気づいたのです」

少し前に転んで顔にあざができた天野先生は、当時、治打撲一方という漢方薬を飲んでいました。この漢方薬に含まれている甘草という生薬には、血圧を上げる作用があるのです。治打撲一方の服用を止めると、天野さんの血圧は正常値に戻りました。

「やれやれと安心したのも束の間。3年に一度の大腸検査を受ける時期になったので、検査日前日の夜９時ごろに2種類の下剤を飲みました。すると深夜０時頃から腹痛が始まり、夜通しトイレで過ごし、朝の６時には下血まで！　ほとほと困り果てました」

下剤によって急激に大腸が収縮した結果、大腸に亀裂が入って出血。つまりこれも薬によるトラブルでした。

「3年前の検査で下剤を使っても何ともなかったのにね。治打撲一方で血圧が上がったのも、下剤で下血したのも、加齢によって薬物代謝が落ちたせい。薬が効きすぎて強い副作用が現れたわけです。去年大丈夫だったから、今年も大丈夫！　そんなふうには言えない年代になったのだなと、80歳の壁を感じました」

自分なりの生きがいを見つけられたら、しあわせ

加齢による体の変化はあるものの、82歳になる現在も天野さんは内科医として働き、講演、ラジオ出演など精力的に活動を続けています。理系でありながら、もともとメカ系は得意ではなかったそうですが、これも必要にかられてマスター。調べものをしたり、論文を書いたり、講演の資料をパワーポイントで作成したり。いまやパソコンは天野さんの必須アイテムとなっています。

講演に使うパワポの資料。「どなたが作ったのですか？」と聞くと、「私以外に誰が作るの！」と天野さん。

パソコンは天野さんの必須アイテムに。

「新しいことに挑戦するのは楽しいですよね。頭も使うし、できないことができるようになるのは楽しい」

パソコンはいったん覚えてしまえば便利だし、オンラインショッピングで地方の名産品を取り寄せるなど、新たな楽しみも増えました。何歳になっても、できることが増えると、毎日の生活がより豊かになるし、新たな張りも生まれます。

「仕事でも趣味でもボランティアでも何でもいいんですけれど、自分が楽しいと感じて取り組めること、生きがいを持つことって、大事だと思いますよ」
と、天野さんは知人の美容師さんのエピソードを紹介してくれました。

「私がテレビ出演するときなど、ヘアメイクをしてくれる方なのですが、彼は72歳で美容師を引退。奥様はすでに亡くなられてひとり暮らしです。それで何をするのかなって思っていたら、趣味のカメラを始めて、朝3時、4時に起きて、車をとばして好きなものを撮影にしにいくんですって。それがすごく楽しそうなんですよ。

作品もどんどんうまくなっていくし。そんな姿を見ていると、“ああ、幸せな人だなあ”、“自分のやりたいことを見つける。生きがいを持つって大事だなあ”と感じさせられました。自分なりの生きがいのようなものを持っていれば、老いの体調変化を感じても、何とか向き合えるのかなと思います」