朝ドラ【あんぱん】すれ違ったままの“失恋” 嵩(北村匠海)とのぶ(今田美桜)はどういった形で道が再び交わるのか
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田幸和歌子
千尋の思いを察したのは、メイコだった
ようやく頑なな気持ちもとけ、歩み寄れるような雰囲気になった嵩とのぶ。
「気に入ってくれるといいんだけど」
と、のぶにプレゼントしたのは、赤いハンドバッグだった。
その目に鮮やかな真っ赤なバッグに、「たまるかー、こんな美しいもん……」と感動するものの、愛国心の鑑にとって、華美なアイテムは自分の信念をブレさせてしまうものである。
決して喜んではいけない、そんな強い思いで自分を律しようとするところに、ここでも不器用な嵩は、
「のぶちゃんがこれを持って銀座の街を歩いたら素敵だろうなって」
と、その思いをまるでわからないことを口にし、
「こんなもん欲しがったらいかんが」
とのぶに拒絶される。
しかし、そこに、
「きっとどんな女の人よりも、のぶちゃんが……」
と、致命的な一言を口にしてしまった。
「こんな贅沢なもんに使うお金があったらたかしも戦地の兵隊さんのために献金するべきや!」
ふたりの間の溝はさらに深まってしまったのだった。嵩は大きなショックを受ける。もちろん、嵩への思いは奥底では変わらず存在する。嵩を傷つけてしまったことに反省もみせる。
いっぽう、嵩の弟の千尋(中沢元紀)も、実はのぶへの淡い思いを胸の奥に秘めている。しかし、兄・嵩の邪魔をすることは決してない。その切ない気持ちもまた、青春群像劇に深みある彩りを加えてくれている気がする。そんな千尋の思いを、ふとした表情から、
「もしかして千尋さん、のぶ姉ちゃんのこと……」
と察したのはメイコだった。
メイコは先に記した通り天真爛漫な末っ子として描かれているが、実は末っ子こそ、無邪気でちゃっかりしてそうなそぶりの陰では上のきょうだいの行動や気持ちをよく見ていて行動する部分もあったりする(『カーネーション』の三女・聡子も、スポーツや雑誌ばかり見ているようでいて、実はそれを内に封じていたというキャラクターだったことも思い出した)。
その察する力は、自分自信の淡い思いにも現れていた。健太郎に、自分の思いを伝えたものの、じっと顔を見つめられ、
「メイコちゃん、目がキラキラして『のらくろ』みたいばい!」
と、満面の笑みで言われ、のらくろの絵まで描かれ手渡されてしまう。デリカシーがないというよりも完全に脈ナシ、全く女性として見られていないことを知り、いったん思いを封じ込める。