佐久間殿(上川周作)のうっかり発言「書けよ!」が、ここまで役立つことになるとは!「続・続・最後から二番目の恋」9話レビュー
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柚野木
小泉今日子×中井貴一の大ヒットシリーズ「続・続・最後から二番目の恋」。11年の時を経て、吉野千明と長倉和平の関係はどう変わった? そして変わらないものとは? 第9話「一緒にわちゃわちゃ生きていく人がいれば、幸せ」のレビューをお届けします。
※ネタバレにご注意ください
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アラカンの涙腺がゆるむ、啓子(森口博子)のシビアなトークのあとの生演奏「続・続・最後から二番目の恋」第8話レビュー長倉和平が出した答えは?
ついに和平(中井貴一)の決断の日がやってきた。両手いっぱいのバラの花束を準備して伊佐山市長(柴田理恵)の誕生日を祝い、そして答えを出した。
次期鎌倉市長の誘いを受けるかどうか、さすがにこの選択は、一般人には縁遠くてイメージしにくいものだったが、和平がたこ焼きパーティー(たこパ)の席で語ったことは、ここまで懸命に生きてきた人ならではの発言で、ずしんとくるものがあった。
まず「自分が選ぶべきもの」について語った。
和平は時間をかけて考えぬいた結果、家族や千明(小泉今日子)との平穏な日々のなかにこそ自分の幸せがあると答えを出して、その穏やかな暮らしを選ぶことを決めた。
人生を振り返ると、彼は就職活動のタイミングで両親を亡くし、そこからは家を守ること、家族を守ることを必死にやってきた。そして定年を迎えたいま、ようやく自分の理想とする平穏な時間を手にして、そこで幸せをかみしめ、自分が選ぶべきものが見えたという。
市長後継者という、大変光栄な誘いの言葉にしばらく夢をみたが、最終的には自分の価値観をもとに決断し、誘いを断った。その表情には迷いがなく、あれもこれも、と欲望に振り回されている様子はない。
もうひとつ、「自分で選択ができること」について和平は語った。
彼はこれまで「自分の夢を持つ余裕がなかった」人生だったと語っている。だから市長からの誘いはとても新鮮で、選択で悩むのは人生で初めてだったんじゃないかな、とも言う。そう、自由な選択のチャンスは、すべての人に平等に与えられているものではない。
パーティーでひとしきり盛り上がっている場面にかぶさる千明の「さびしくない大人なんていない」から始まるモノローグのシーンでも、今回はこのことが語られる。子どもも大人もいろんな事情を抱えて生きている。そのなかで、選択の幅が狭まっていく。「(どんな選択であれ)大事なのは、それが自分の選択であることなんだ。どうか、この世界に生きるすべての人が、人生の選択を自分で行えますように……」と願いを語る。
自分で何かを選択できることの幸せ、これをはたと気づかされ、それとともに和平の名前が「平和」の文字でできていたことを図らずも思い起こしたのだった。
昨今、社会のなかでは、いくつになってもアクティブに新しいことにチャレンジすることをよしとする風潮が強くて、和平のように「変わらないことを選ぶ」というのは意外と難しいと思う。こういう局面で、地に足のついた結論にたどりついた経緯を聞いて、えりな(白本彩奈)が父親のことを「かっこいい」と思ったのは、うなずける。
さらに、かっこいいところをみせたあと、若い恋人たちの前で、とことんお恥ずかしい醜態をさらしてしまうあたりが、なんとも和平らしい。