51歳で若年性アルツハイマーと診断【YAYOIさん・55歳】が歌で見つけた生きる楽しみとは?
北海道在住のアーティスト、YAYOIさんが若年性アルツハイマーと診断されたのは、51歳のときでした。「私はいったいどうなってしまうんだろう?」大きな不安の中から唯一見いだした光は、歌を歌うことでした。
お話を伺ったのは
YAYOIさん(55歳)
やよい●1970年北海道生まれ。
高校2年生のとき、ヤマハポピュラーソングコンテストのジュニア部門で銀賞受賞。翌年のさっぽろ雪まつりでは、テーマソングの歌唱を担当した。
2021年に認知症の診断を受けて音楽活動を再開。
ほっかいどう希望大使として、情報発信にも力を注いでいる。
軽い気持ちで受けた検査で認知症を疑われる
前向きに認知症と向き合い、さまざまな活動を発信する––––「ほっかいどう希望大使」は、そんな認知症の方を任命する北海道独自の制度だ。3名いる大使のひとりがYAYOIさん。診断を受けてから本格的に音楽活動を始め、今もエネルギッシュにライブを続けている。
「51歳のときでしたか、すごく大切な仕事の約束を忘れてしまって。絶対に忘れるはずがないのに、どうしたのかと不安になりました。同じ頃、いきなりカーッと頭に血がのぼって息子に暴言を吐いてしまいました。何が原因だったのか……。もうね、『ブチ切れる』という言葉そのもの。そんなことは初めてで、すごくショックでした」
知り合いのカウンセラーに相談すると、WAIS(ウェイス)検査をすすめられたという。これは、大人を対象にした知能検査の一種。認知症を診断するものではなく、発達障害の診断などに使われることが多い。
「自分にはどんな傾向があるのかな、自分はどんな人間なのかがわかればいいなと、軽い気持ちで受けたんです」
ところが。結果が出ると電話がかかってきた。認知症と診断された人の傾向と似ているから、きちんと調べてもらったほうがいいというのだ。いくつかの検査を受けて最終的にくだされた診断は、若年性アルツハイマー型認知症。驚きはしたが、妙な納得感もあったという。
「その頃夫から、『今までと違う』『どうしちゃったの?』と言われていましたから。ああそうか、認知症だからなのか、と腑に落ちた」
自分の役割としてできること。それは歌を届けること
けれど、病気をすんなり受け入れられたわけではない。記憶がなくなるなどの認知症のイメージは、YAYOIさんをひどく苦しめた。
「夫とは子連れ再婚同士で、子どもが4人いるんです。彼らが家庭をもち子どもをもったら、たくさんサポートしてあげたいと思っていました。そういうこともできなくなるのか、自分はどうなってしまうんだろうと、とても不安でした」
買い物に行けば何を買うのか忘れてしまう。冷蔵庫には、在庫を忘れて買ってしまった食材がいくつも。落ち込む日々を過ごしながら、「何をしているときが楽しい?」と夫に聞かれて思い立ったのは、大好きな歌を歌うことだった。
「今のうちに歌っておかないと!って。歌っていると楽しいんです。歌詞の世界に入り込むと、自分じゃないもうひとりの自分になれる。これなら自信をもってできる。認知症の自分が何かできるとしたら、歌を届けることじゃないのか。そう思いました」
悔いなく生きたい。その強い気持ちが、YAYOIさんを音楽活動に導いていく。地元のよい指導者に出会い、ライブハウスで歌ううちに、少しずつお客さんも増えてきた。
