記事ランキング マンガ 連載・特集

認知症の母を撮影し、映画に。ドキュメンタリー監督【信友直子さん】「母が認知症になって父の素晴らしさに気づきました」

公開日

更新日

ゆうゆう編集部

認知症の87歳の母と、支える95歳の父の姿を追ったドキュメンタリー映画、『ぼけますから、よろしくお願いします。』。撮影・監督した信友直子さんに、母の介護を通して変化していった気持ちや、今感じていることを伺いました。

お話を伺ったのは
信友直子さん  ドキュメンタリー監督
のぶとも・なおこ●1961年広島県呉市生まれ。
東京大学文学部卒業。86年から映像制作に携わり、在京キー局でノンフィクション番組を多数手がける。
放送文化基金賞奨励賞、ギャラクシー賞奨励賞など、受賞多数。

母のひと言がきっかけで映像を撮り始める

2018年に劇場公開された『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、全国各地で大反響を呼んだ。しかし、信友直子さんは最初から母・文子さんが「ぼけ」ていく様子を撮っていたわけではない。文子さんが気にすると思ったからだ。気持ちを変えたのは、その文子さんのひと言だった。

「『最近ビデオ回さんようになったけど、私がおかしいけん撮らんようになったん?』と、母に聞かれたんです。ビデオカメラはいつも持ち歩いていて、帰省すると父と母を撮ってみんなで見るのが楽しみでした。母は、自分が家族の楽しみを奪ってしまったと心を痛めているんだと気づいて、また撮るようになったんです」

この頃、信友さんは母の認知症を認めたくなかったという。そのくせ、そのことばかり考えてしまう。ストレス発散に、格闘技系のレッスンに異常なほどはまっていた。そこから平常心に戻してくれたのも、やはり文子さんの「なんで私はおかしゅうなったんかね?」という言葉だった。

認知症の母を撮影し、映画に。ドキュメンタリー監督【信友直子さん】「母が認知症になって父の素晴らしさに気づきました」(画像3)

自宅で母を囲む父と信友さん。家族の姿を撮影して笑い合うのが、信友家の日常だった。

「以前、若年性認知症の取材をしていたことがあります。でも、こういう悩みを訴えてくる患者さんはいませんでした。娘だから素直に話してくれたんじゃないかと感じ、これは貴重なことだと。めったに撮れるものではないから、世に出したいと思ったんです。撮ろうと意識が変わってからは、落ち込まなくなりました」

娘としては母の情けない様子を見たくはないが、カメラを通すと「すごいもの撮れた」と、ちょっとワクワクしたという。

「廊下にばらまいた洗濯物の上に母が寝ちゃうのとか、すごくいい画なんです。そこを通る父は怒りもせず平然とトイレに向かう。それが日常なのが面白くて。母の様子を面白がれるようになって、気持ちが楽になりましたね」

画面トップへ移動