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「離婚・留学・そして出会い—」80歳の元ミス日本代表・谷 玉惠さんが綴る【私小説・透明な軛(くびき)#2】

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谷 玉惠

ニースで出会う、7歳下の彼

ニースへは、パリのドゴール空港から国内線に乗り継いだ。眼下にはアルプス山脈の雄大な雪の頂が連なり、その壮大なスケールに「ああ、日本を離れてきたのだ」とあらためて実感した。

避寒地とは言え、1月のニースは寒い。灰色の重い雲が紺碧の地中海を覆い、知香は一瞬、ホームシックに襲われた。だが、すぐに始まった学生生活がその心を癒してくれた。

外国人科には、アメリカやヨーロッパ、中近東、東南アジアなど、世界各地から留学生が集まっていた。授業は当然フランス語で、ときには理解が追いつかないこともあったが、教授たちは優しく根気よく説明をしてくれた。

大学の学食は一食5フラン。日本円にすると200円だ。フランスパンは食べ放題、前菜やメインディッシュ、ヨーグルト、デザートまで豊富にそろい、自由に選べた。

日本人は12人ほどおり、ほとんどが外国人科の学生だった。日本人女性は、そのうち3人。知香は持ち前の明るさと、年齢より若く見える雰囲気もあって、すぐに友だちを作ることができた。

その中に、秀雄がいた。イラストレーターをしていた彼は、7歳年下のイケメン。時折見せる照れたような表情や優しい眼差しに、知香は一目惚れをしてしまった。

彼のクラスはオーディオビジュアル科。フランス語は全く初心者で、仕事の視野を広げるために渡仏し、学び始めたところだ。紺碧の地中海にあこがれてニースを選んだ秀雄と、同じように海が大好きな知香とは気が合い、すぐに意気投合した。

授業が終わると二人で、あるいは仲間と連れ立って、毎日のように海へ出かけた。海の近くまで行くバスはあったが、やがて二人で50CCのバイクを買った。学校には楽に行けるし、ツーリングを兼ねてエズという高台の町へ出かけ、そこからニースの海と町を一望した。授業が休みの期間は、イタリア、スペイン、スイスと二人で列車の旅をした。

学生はアルバイトが認められていて、知香は多少心得があったため美容院で働き、心細くなってきた資金を補った。その間、秀雄は友人たちと海に繰り出していた。
「女が働いて、男が遊んでいるなんて!」
秀雄を知る大家のマダムは憤慨したが、その身びいきぶりが日本人的で、知香はどこかうれしかった。

夏の終わり、二人はそのマダムに別れを告げてパリへ向かった。小さな部屋を借り、語学学校に通った。

その年の12月、クリスマス間際に二人は帰国した。
知香を可愛がってくれていた祖母が亡くなったこと、資金が底をつきかけていたことが理由だったが、何より知香には「早く社会復帰をしたい」という強い思いが芽生えていた。ひとり取り残されているような心細さを感じていたのだ。

フランスでは、テレビの司会者やレポーターの洗練された仕草や表情、話し方を目の当たりにした知香は、自分との差にショックを受け、今後の方向性を模索していた。そんなとき、かつて世話になった美容体操の恩師から「帰国したら秘書をしてほしい」との手紙が届く。知香は迷うことなく、その誘いに応じた。収入をすぐに得られることは、ありがたいことである

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