【永瀬正敏さん&髙橋海人さん】撮影裏語る「髙橋くんが来るのが楽しみでしたし、可愛いですよね(笑)」
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志賀佳織
北斎と善次郎の場面はほとんどの台詞がアドリブ
北斎と娘の関係性をそう振り返る永瀬さんだが、実在の、しかも伝説の絵師を演じるにあたっては難しいこともあったのではないだろうか。
「稀に見る天才ですからね。天才を演じるってもう無理なんですよ。たった数カ月で天才になるなんて無理なので、とにかくひたすら絵を好きになろうと、そこからでしたね。もちろんいろんな資料を拝見して、コレクターの方に貴重な作品を見せていただいて、美術館にも行き、画集もこんなに買うのは初めてかもしれないと思うぐらい集めました。でも結局のところ、お墓参りして『撮影中は憑依してください』とお願いする、それだけでしたね。今みたいに映像が残っているわけではないので、北斎の人物像を語るものも、人づてだったり、第三者の印象だったり、それを繙いた人たちの解説本になるのでバラバラなんですよ。なので、もうこれは、監督の書かれた脚本の世界の北斎を誠心誠意思いを込めて生きよう、最後はそこに至りました」
その思いのとおり、作品中の永瀬さん演じる北斎は、絵の魅力に取り憑かれた様子が、役者さんが演じていることを忘れさせてしまうような熱量で迫ってくる。そんな姿を「やっぱり存在感すげえなと、何回も奥歯ギリギリさせながらこんなふうになりたいって見ていました」という髙橋さんも、実在の絵師である英泉(善次郎)を演じるにあたっては、あれこれ思いを巡らせたという。北斎親子を一番身近で見ながらも、自身は家族を養うために絵師の道を選び、それだけに途中で画家を辞めて転身するという現実路線派と語る。
「たぶん善次郎は、北斎親子と正反対の思想の持ち主だったと思うんですよ。二人にとって絵が人生すべてを懸けて没入できるものであるのに対して、善次郎にとっては家族を養う一つの手段になっている。自分の才能もしっかりわかっていて、その上で、生きていくためにはどうすべきかを心得た現実主義者というか。明るくてちゃらんぽらんなだけじゃなくて、ある程度のことでは屈しない、見せない強さがあるところも、すごく魅力的だなというふうに感じました」
永瀬さんが続ける。
「善次郎は、作品の中で風を呼び込む人じゃないですか。応為と北斎の暮らしの中に新しい風を持って来てくれる人。だから、その意味で撮影中も毎回髙橋くんが来るのが楽しみでしたし、可愛いですよね(笑)」
それを受けて「ありがとうございます」と照れる髙橋さん。二人の佇まいは、映画の役柄同様、とても微笑ましい師弟関係に見えてくる。撮影中、永瀬さんはよくアドリブも仕掛けたという。髙橋さんが振り返る。
「師匠と善次郎の会話はほとんどアドリブだった覚えがあります。僕も絶対返したい、永瀬さんのアドリブに返せたら、それはもう俳優以前に自分の人生としていい財産になると思ったので(笑)気合いを入れて。その時間のすべてが幸せでした」
