【加藤登紀子さん82歳】ジブリ映画『紅の豚』の歌姫ジーナの生きた100年を歌にしてコンサートで披露したい
ジーナの生きた100年を歌う
加藤さんと宮崎さんとの出会いは1991年。翌92年公開のジブリ映画『紅の豚』に、ホテル・アドリアーノを経営する未亡人で、かつシャンソンを歌う歌姫でもあるジーナ役として出演をオファーされたことがきっかけだった。
「あの映画の舞台は、二つの大戦の間の世界大恐慌時代のイタリア・アドリア海。第一次大戦が散々な結果に終わったことで、ヨーロッパのひとつの秩序が崩れたんです。でも秩序が崩れた後というのは、次の未来が生まれるチャンスでもあるので、その希望があの映画の中では描かれているんです。でもそれも無残に駆逐されて第二次世界大戦が始まるわけですが、そんな暗黒の時代でも、人々は希望を持って楽しくいきいきと生きている。それを考えて、私はちょっと想像力で、その後ジーナが、主人公の飛行機乗りポルコ・ロッソがどう生きたかを考えてみたんです」
加藤さんの「見立て」ではこうだ。ジーナは加藤さんと50歳違いの1893年生まれ。ポルコ・ロッソは1910年に17歳で初飛行した人がモデルと言われているので、ジーナと同い年。その人物像は、同じく1893年生まれで、「多民族・多宗教の火薬庫」と呼ばれたバルカン半島をまとめてユーゴスラビアを作ったチトーと重なるのだという。「それがポルコ・ロッソの未来というのが私の想定(笑)」
一方、ジーナはどうしたかと言えば、「ずっとあそこで歌っているんですよ。『リリー・マルレーン』とか、そういうのを歌っている。もしジーナが100歳まで生きたとしたら、『紅の豚』が公開された頃に、100歳ぐらいになっているはず。そう考えると、この100年の間に人々がどう生きてきたのかを、私たちはもっと思い出したほうがいいよねと、今度のコンサートは『明日への讃歌 ジーナの生きた100年』と題して、彼女の生きた歳月を歌ってみようと思っているんです」
今、戦禍に巻き込まれる国や地域が増えている。危機を身近に感じ始めた日本でも各地で連日、反戦デモが起こっている。歴史に今一度、謙虚に学ぶことが求められてもいるときでもあるが、加藤さんは「ジーナの100年」を歌いながら、今のこの時代をどう見ているのだろう。
「何か声をあげるときに、私たちはデモをするという方法を取りますが、でも、そういう行動の無力さもいっぱい経験してきたことを振り返ると、それよりも一人の人が何を思うかということがすごく大切な時代だと思っているんです。一人の人が思い立って遂げようとする、その思いというのはすごく強いもの。だから、どんな人でもどんな場所にあっても素晴らしくあることはできるのではないか、そうでありたいというのが私の願いですね。声を大きく出した人だけが命を助けられるのではなくて、そっと手を差し出してくれる人に助けられることもある。私のように大陸で終戦を迎えた者たちは、中国の人が声を上げて助けてくれたから生き延びられたわけではなく、そっとしておいてくれた中国の人たちがいたから生き延びられたんです。たぶん、日本人はそこにいてはいけなかった民だったのに、それにもかかわらず、私たちをそっとして黙っていてくれた中国の人たちがいたから、私たちは難民として生きられた。そっと黙っていてくれることが一つの命を支える力であることもある。黙っていることにすごく大きな勇気を必要とすることもある。だから大きな声を上げてデモをすることだけが唯一の正しい方法というわけではなく、毎日の生活の中できっと誰もができることがあるんじゃないか、それが今の時代には必要なのではないか、そんなふうに思っているんです」
【Information】
『「ま・さ・か」の学校 ピンチはチャンス』
「知床旅情」をはじめとするさまざまなヒット曲の裏にある運命的な物語や、これまで巡り会ってきた人たちとの貴重な思い出、そして思いがけず体験することになったハイジャックなどなど、これでもかの「まさか!」な出来事に満ちた加藤登紀子さんの半生を振り返った一冊。どんな「まさか」も笑って楽しんで明日への糧に変えていくその姿は、前作『「さ・か・さ」の学校 マイナスをプラスに変える20のヒント』と併せて、私たち読者に大きな力を与えてくれる。
「まさか」の学校:ピンチはチャンス
加藤登紀子(著)
時事通信社(刊)
※詳細は以下のボタンへ
「TOKIKO KATO CONCERT2026 明日への讃歌 ジーナの生きた100年」
スタジオジブリの映画『紅の豚』でジーナを演じた加藤登紀子さん。劇中でジーナが歌う「さくらんぼの実る頃」は、1871年、パリで起こった市民革命の中から生まれた歌だ。『紅の豚』の舞台は1929年から30年頃の、また次に戦争が始まろうとしていた時期。ジーナより50年後に生まれた加藤さんが、今、その後を生きたジーナの歳月を自身の大切な歌で綴る。
6月20日(土)東京国際フォーラムホールC 開場 14:45 開演 15:30 SOLD OUT
7月11日(土)千葉県文化会館 開場 14:45 開演 15:30
全席指定8000円 (問)トキコ・プランニング 03-3352-3875
取材・文/志賀佳織 撮影/中村彰男
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