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実際の授業はどんなふうに行われている?認知症ケアから生まれた「おとなの学校」潜入レポート

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ゆうゆうtime編集部

介護施設でありながら黒板があり、日直がいて、先生が出席簿を手に名前を呼ぶ。校歌を歌い、国語や理科の授業が始まる——あの頃にタイムスリップしたかのような世界が味わえる「おとなの学校」。前回に続き大浦敬子先生の元を訪ね、実際の授業風景と生徒さんたちの時間を取材しました。

ここは私たちがよく知る学校の風景をそのまま再現した「おとなの学校」の介護施設です。細かい備品やシステムに至るまで忠実に再現されており、一歩足を踏み入れると、まるで別世界に入り込んだような感覚を味わえる場所です。

この「おとなの学校」をつくったのは、前回インタビューさせていただいた大浦敬子先生。認知症ケアの現場から「おとなの学校」が生まれるまでの歩みと、そこに込めた思いを前回伺いましたので、今回は実際に、教室ではどのような授業が行われ、生徒さんたちはどんな時間を過ごしているのかを取材しました。

目指したのは、教材ではなく「学校そのもの」

人はいくつになっても、学びたい気持ちや、誰かと関わりたい思いがあります。

学校は育った地域や歩んできた人生が違っても、多くの人が経験してきた場所ですから、認知症が始まっていたとしても、自然と学校に通っていた頃の感覚を思い出して参加できるんだそう。

人は新しいことを知り、自分の経験を話し、誰かと関わっていきたいという思いは、年齢は関係なく心の中に残っているのです。『教科書をつくろう』と思ったのではなく、『学校をつくろう』と思ったという大浦先生のコンセプトの通り、「おとなの学校」では、高齢者を施設の利用者としてではなく、一人の生徒として接しています。

特徴的なのは、「おとなの学校」の教科書です。開いた瞬間にまず目に飛び込んでくるのが、色鮮やかな写真です。つややかなナス、みずみずしい野菜、思わず手を伸ばしたくなるような料理、季節を感じる花々、旅したくなるような景色のいい写真。

内容はもちろんですが、「おいしそう」「きれい」「懐かしい」と、見た瞬間に心が動く写真を徹底的にこだわってセレクトしているそう。生徒さんの多くが女性であることも考え、大浦先生は、写真の色や組み合わせにも細やかに心を配っているそうです。

「女性は、やはりきれいなものが好きですよね。濁った色より、きれいな色のほうがいい。ピンクの花があれば、次は白、その隣には黄色を置きたいというように、全体の色合いまで考えます。

私も雑誌が好きで『主婦の友』や『家庭画報』を見ていろいろ研究したんです。皆さん、文字ばかりだと読みづらいので、雑誌でおいしそうな料理の写真を見たら、思わず『わあ』と思うでしょう。その心の動きが大切なんですよね」と大浦敬子先生。

たとえば、みずみずしいナスの写真を見ながら、「これは何でしょう」と先生が尋ねます。最初の答えは「ナス」ですが、そこから、「育てたことある人いますか」、「どんな料理で食べるのが好きですか」「誰と一緒に食べましたか」と、少しずつ問いを重ねていきます。

すると、家庭菜園の庭や、台所に立っていた頃のこと、家族と囲んだ食卓など、一人ひとりの記憶がゆっくりと動き始めます。

同じ写真を見ても、思い浮かぶ風景は人によって違います。農家で育った人は畑のことを、料理が得意だった人は家族に作った献立を、別の人は母親の味を思い出すかもしれません。美しい写真は、目を楽しませるだけではなく、その人の中に残っている人生の記憶へと入っていく、扉のような役割をしているのです。

誰もが知っている題材だから、自分の思い出を語れる

毎月の教材に取り上げる題材は「多くの人が知っていること」というのもポイント。季節の花や野菜、昔の暮らし、学校行事、よく知られた土地や出来事。誰もが一度は見たり、聞いたりしたことのある題材だからこそ、そこに自分の経験を重ねることができます。

「奇をてらいすぎたものでは、会話に入れない人が出てしまいますので、基本的には、皆さんが知っているものを選びます」(大浦敬子先生)

さらに、題材と同じくらい大切なのが、質問の順番です。
一つの写真から次の記憶へ、無理なく進めるように問いをつないでいきます。

「最初にこの写真が目に入り、次にこの質問へ進む。ここまで来たら、こんな記憶が出てくるのではないかと、その人の頭の中の流れを考えます。途中で思考を止めないことが大事なんです」(大浦敬子先生)

最初はなかなか言葉が出なかった人も、問いかけを重ねるうちに、少しずつ昔のことを思い出し始めます。一つの記憶が浮かぶと、そこから別の場面や人物が、芋づる式によみがえってくることもあるそうです。

写真、題材、問いかけの順番、そのすべてが、生徒さんの中にある人生の物語を、自然に引き出すために考えられていました。

「正解」よりも、その人から出てきた言葉を大切に

授業が進むにつれて、教室のあちらこちらから声が上がります。
先生の問いかけにすぐ答える人、教科書を見ながらゆっくり考える人、隣の人にそっと答えを教える人。誰かの話を聞いて、「私もそうだった」と、会話に加わる人もいます。

教科書の余白に、小さな文字でびっしりと書き込んでいる生徒さんもいました。答えを書くための欄だけでは足りず、その横にも、その先にも、懸命に文字をつづっています。

「おとなの学校」が大切にしているのは、「認知症だから、きっとわからない」と考えることではありません。
「全員がわかるはず。全員ができるはず」
そこから授業を始めます。

できると信じてもらえる場所に入ると、本人もまた、「自分はできる」という世界に入っていく。先生の質問に答えようと手を挙げ、褒めてもらうとうれしそうに笑い合っています。その姿はまるで、学生時代に戻ったかのように若返り、生き生きとされているから不思議です。

「みんな優等生になりたいんですよね。子どもの頃、先生に怒られてちゃんと授業を受けてこなかった、その経験があるからこそ、もう一度ここでやり直したいと思う。だからみなさん真面目だし積極的に参加されるんです」と大浦先生。

もう一度生徒になるということが、これほどまでに人を夢中にさせるのを目の当たりにしました。

授業中は、生徒さんから出てくる言葉を丁寧に受け取り、すぐに正そうとはせず、間違えたことも、その場の楽しい会話へと変えていく工夫をされています。
「そこで修正したところで、『だから何なの?』という話になると思うんです。それなら、面白くしたほうがいいと思うんです」と校長先生。

間違えても怒られない、うまく言葉にできなくても、先生や周りの人が待っていてくれる。そんな安心感があるからこそ、生徒さんたちは自分の言葉で話し、自分の経験を語り、周りの人とのやりとりを楽しめるのだと言います。ひとつの問いから思いがけない話が始まり、誰かの記憶が、また別の人の記憶を呼び起こす連鎖が起こるのです。

生徒さんたちのリアルな声

実際に参加されている生徒さんたちに、「おとなの学校」で過ごす時間について聞いてみました。

「ここへ来ると、元気をもらえます」

「全部好きですよ。みんなと会えるのも楽しいし、一緒にお食事をしたり、おやつを食べたり、体操をしたりするのも好きです。ここへ来ると、元気をもらえますよ」(タカ子さん)

誰かと会い、同じ時間を過ごし、一緒に笑うこと。その一つひとつが、タカ子さんにとって、通う喜びになっているようです。

「先生のほうが、私のことを覚えてくれています」

「校長先生をはじめ、職員の方々も本当に親切で、先生のほうが私のことをよく覚えてくださっていて、『この前のことは大丈夫だった?』と声をかけてくれます。それが、とてもうれしいんです。好きな科目は社会科で、日本、世界のことにも関心があり、毎日、いろいろ覚えようと思っています」(角子さん)

「先生が優しいから楽しい」

「先生たちが優しいから、何も気にせず来られるんです。社会科も好きですし、新聞や雑誌も読みます。以前は銀行で働いていたんですよ」(のり子さん)

仲間に会い、自分の経験を話し、新しいことを知ることができる、学校での学びを心から楽しんでいるそう。

「介護をしている、という感覚はないんです」

先生の役割をするスタッフの方にも、生徒さんたちとどのような思いで向き合っているのか、伺いました。

「一般的な意味で、介護をしているというつもりは、まったくないんです。皆さんの先生役をやらせてもらうことが、楽しくて仕方がないという感じですね。認知症のある方だからと特別に構えるのではなく、人生の先輩として敬意を持ち、自然に仲良くなることを大切にしています。こちらが構えると、相手の方も構えてしまいますので。認知症の方の中には、近い出来事を覚えておくことが難しい方もいます。でも、僕は覚えていられる。だから、覚えていられる自分の力を生かしているだけなんです」(校長先生)

角子さんが話していた、「先生のほうが私のことを覚えてくれている」という喜びは、こうした日々の積み重ねから生まれているのでしょう。

先生役になると、スタッフの表情も変わる

大浦先生は、学校という形が、生徒さんだけでなく、働くスタッフにも力を与えると話してくれました。普段は介護の仕事をしているスタッフも、教科書を手に教壇へ立つと、「先生」になります。教室全体に届くように声を出し、生徒さんの発言を拾い、授業を楽しく盛り上げる。先生役になると、いつもは控えめな人の表情まで、生き生きと変わっていくそうです。

「学校という舞台を用意すると、皆さん、本当に先生になりきるんです。生徒も先生も、両方が元気になるんですよ。介護をする人と、介護される人という一方向の関係ではなく、先生と生徒としてともに話し、ともに笑う場となります」(大浦先生)

生徒さんだけでなく、スタッフさんにとっても、「おとなの学校」は、新しい自分や仕事の楽しさに出会える場所になっているようです。

「認知症になっても、その人自身は変わりません」

――この記事を読んでくださるのは、50代、60代で、これからの親のことを心配している方も多いと思います。

「親が年齢を重ね、認知症になったとしても、『何も変わらない』と思っていてほしいんです。言葉の表し方が少し変わったり、返ってくる言葉が厳しくなることもあるかもしれませんが、その人の根本は変わりません。そこは、信じていてほしいと思います。『あ、今はイライラしているんだな』くらいに、少し軽く受け止めてもいいと思うんです。

『この先、どうなってしまうのだろう』と考え続けるより、その瞬間、その瞬間を、できるだけ穏やかに過ごしていく。今がうまくいっているなら、それでいいと思えることも大切です。家族だけで抱え込まず、いろいろなサービスを探して、その人に合う場所へつなげていくことも方法の一つです。認知症になっても、怖がらないでいてほしい、その人自身は変わらないということを、信じていてほしいんです。僕も、もし自分の親がそうなったら、いろいろあるかもしれませんが、変わらず息子をやるんだろうなと思います」と校長先生。

認知症という言葉を前にすると、私たちはつい、「これまでの親ではなくなってしまうのではないか」と不安になりますが、その関係性までが変わってしまうわけではない。できなくなったことだけを見るのではなく、今も残っている表情や言葉、小さな反応を大切にし、その人が本来持っている力を信じて待つことが大事だと感じる取材となりました。

こんな素晴らしい「おとなの学校」、そして認知症について知れる大浦敬子先生のお話し会を9月9日(水)主婦の友社で開催します。

★お申し込みはこちらから★

【おとなの学校 スペシャル課外授業】まだ知らない、親の物語に出会う「自分ものがたり」教室<参加費無料>

認知症と回想法を学び、親子の会話を深める

大浦敬子先生に認知症についての基本的な知識と「回想法」を教えていただきながら、親の人生を聞き、かけがえのない思い出を「自分ものがたり」として可視化することの大切さを学びます。

また、主婦の友社の編集者が伝える、会話のきっかけや質問の仕方の取材術を体験できるワークも交えて開催。家庭ですぐに始められる会話のヒントを持ち帰っていただけるセミナーです。

日時|2026年9月9日(水)13:00〜14:30
会場|主婦の友社
東京都品川区上大崎3-1-1
目黒セントラルスクエア内
定員|50名
※最低催行人数10名
参加費|無料

★お申し込みはこちらから★

※お申し込み多数の場合は、抽選となる場合がございます。
※抽選となる場合、開催日の1週間前までに事務局よりご連絡いたします。
※参加をご希望の方は、お早めにお申し込みください。


取材・文/橋本夏子


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