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【中野翠のCINEMAコラム】恋に舞い上がる 初老の映画監督。 その恋のゆくえは⁉『苦い涙』

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中野翠

ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト、中野翠さんが、おすすめ映画について語ります。舞台は1970年代の西ドイツ。有名な映画監督であるピーター・フォン・カントは家族持ちだけれど、実は同性愛者。ある日、俳優をめざしてオーストラリアからやって来た青年アミールと出会い、ピーターはひとめ惚れ! この狂恋のゆくえは!? フランス屈指の人気俳優ドゥニ・メノーシェ、映画界の生きるレジェンド、名優イザベル・アジャーニらの豪華競演も見もの。

同性愛を軸にした映画には、あんまり乗れないのだけれど……このフランス映画『苦い涙』には、おおいに笑わせてもらった。超オシャレで、リッチで、ユーモラスな映画です。

1970年代初頭の西ドイツの街が舞台になっている。有名な映画監督であるピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は家族持ちだけれど、実は同性愛者。最近、恋人(もちろん男)との関係がうまくいかず、意気消沈している。

そんな中、俳優をめざして、オーストラリアからやって来た青年アミールと出会い、ピーターはひとめ惚れ! たちまち元気を取り戻す。アミールを自宅に住まわせ、スターとして売り出そうとするのだが……という話。ほぼ喜劇。

有名な監督とはいえ、中年、いや、初老といってもいいようなピーターが、アミールにのぼせあがる様子が笑いを誘う。まるで10代の少女のように、いちずなのだ。ピーターの忠実な助手カール(元・愛人)も妻も娘も「また始まった」とばかり、平然としている。さて、この狂恋のゆくえは……⁉

アミールという「美神」を得て、俄然、創作意欲を取り戻し、活気づくのだから……のちに「苦い涙」を流すことになっても悔いることはないのでは? 実はハッピーエンドでは?――と思わせる。

リッチな芸能人という設定ゆえ、住まいのインテリアやファッションも、おおいに見もの。

フランソワ・オゾン監督は1967年生まれの55歳。監督デビューした頃は、少々、奇をてらっている感じだなあと思っていたのだけれど……今や、『すべてうまくいきますように』(今年2月に公開)、そしてこの『苦い涙』――というわけで、人間を人生を、生と死を、深く見つめ、どこか明朗さを持って描き出す、立派な監督になったなあ……と思わずにいられない。

『苦い涙』

監督・脚本/フランソワ・オゾン
出演/ドゥニ・メノーシェ、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア、
ステファン・クレポン、ハンナ・シグラ、アマント・オディアール 他

6月2日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 他 全国順次公開(フランス 配給/セテラ・インターナショナル)
© 2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION © Carole BETHUEL_Foz

さて。6月9日公開のフランスのアニメ映画『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』も断然オススメ。

日本のアニメも結構だが、さすがフランス、品よくスマートな描線と色づかいにシビレる!

※この記事は「ゆうゆう」2023年7月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

ゆうゆう2023年7月号

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