作家・医師の【南杏子さん】が見つめる終末期医療の現場、二足のわらじの意義[後編]
医療と小説。ふたつが補い合っている
子どもが成長すると、夫婦だけの時間が増えていった。夫の誘いで陶芸やロシアの武術・システマを習いに行ったりするようになる。カルチャーセンターの小説教室に誘ったのも夫だった。49歳のときだ。
「当初は、趣味の延長のつもりで、私はSFとかファンタジーを書いていたんです。そうしたら、指導くださった根本昌夫さんに『もっと切実なものを書きなさい』と言われまして……」
根本さんは文芸誌『海燕』や『野性時代』の編集長を歴任し、そうそうたる作家たちのデビューに立ち会った敏腕編集者だ。
「私にとって切実なテーマは何かと考えたときに、心に浮かんだのは、やはり終末期医療でした」
53歳のとき、「第8回小説宝石新人賞」の最終候補に残った。その縁で編集者と知り合い、何度も何度も書き直して上梓したのがデビュー作『サイレント・ブレス』。55歳だった。
以降、南さんは『ディア・ペイシェント』『いのちの停車場』『ヴァイタル・サイン』と、医療にまつわる小説を書いている。
「小説を書くことで、ため込んでいた思いを発散し心の中を整理しているような気がします。書くことで、命の最後までを見るのが医療であるという確信も強くなりました。常にリフレッシュされ、新たな気持ちで医師として働けているのも小説のおかげかも。小説と医療が私の中で補い合っているのかもしれません」
この記事の執筆者
関連記事