今年75歳・姜尚中さんに聞く「人生後半戦、もう私は一人になりたいわ」そんな思惑の先にある落とし穴
卒婚、熟年離婚、ひとりで生きていく——という人にとってセーフティネットとは?
——ご著書では、「国籍がなければ、この世界では生きていいけない」という下りが出てきます。一般の中高年の女性にとってはある意味でよりどころが「家庭」だったりします。一方で、最近は卒婚や熟年離婚という言葉が珍しくなくなりました。家庭に属する、何かに属するということとは相反して、「もう私はひとりになりたいわ」という方もいらっしゃいます。こういう傾向をどう思われますか。
姜尚中 サーカスにたとえると、空中ブランコと同じで、難易度の高いブランコの曲芸ができるのは、やっぱり「セーフティネット」があるからです。もしセーフティネット全部省いて、たとえばニューヨークの超高層ビルの間にロープを張って曲芸をやりなさいと言われても多分できない。セーフティーネットが信頼できればできるほど自分が大胆なことができる。どこかに帰属しているっていうことは、セーフティーネットがあるということだと思います。
自由度が高くなって、これまでのいろんなしがらみはもういいや——と。私もその気持ちはよくわかるけど、一方で我々はタービュランス(乱気流)の時代に入っています。そうすると何が起きるかわからないので、その時にやっぱりセーフティーネットがないと。
どうしようもない状態になった時に、セーフティネットがあるとね。家庭もそうでしょうし、経済、それから健康もそう。非常事態でほぼ避けられないのは地震ですね。熊本地震は私も経験しています。そういうことが今後起きる蓋然性は非常に高いです。その中でよく聞くのは、結局最後は人と人の結びつきのセーフティーネットだということ。
だから、それは地縁的なものでもいいし、仕事上でもいいし、あるいはバーチャルの形でもいいです。ホスピスの方がおっしゃっていた話ですが、「ホスピスの中で人は一人で死んでいくことが一番つらい。だから、家族や縁者がいなくても、そこに看取る人がいることで安心する」という。やっぱり人との結びつきを考えておきたいですね。
▼第2回に続きます▼
姜尚中さん プロフィール
かん さんじゅん●1950年生まれ。政治学者。東京大学名誉教授、鎮西学院学院長、熊本県立劇場館長。著書に100万部を超えた『悩む力』、『続・悩む力』『心の力』『母の教え 10年後の悩む力』『朝鮮半島と日本の未来』『在日』『母—オモニ—』『心』『アジアを生きる』(すべて集英社)など。『アジア人物史』(集英社)では総監修を務める。近著に『生きる証し』(毎日新聞出版)。
撮影/佐山裕子
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