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「やまとなでしこ」桜子から「あんぱん」登美子へ。松嶋菜々子×脚本 中園ミホのメッセージとは?王道ラブコメ「やまとなでしこ」を一気見

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藤岡眞澄

9話は神回! 涙腺崩壊は避けられない

一方、桜子に「お金には代えられない大切なものがある」と気づかせる欧介を演じた堤真一。惹かれ合いながらも、それを素直に認めようとしない桜子の前で見せる、困ったような情けない表情がたまらなく愛おしい。堤真一が画面に出て来た瞬間、欧介って絶対にいい奴だ、と一瞬で伝わる達者に舌を巻く。

舞台出身だった堤真一が、このドラマを経て、テレビや映画にキャリアの幅を一気に広げたというのも頷ける。

まさに、松嶋菜々子は神野桜子そのものだったし、堤真一は中原欧介そのものだった。

だからこそ、人生で大事なのはお金なのか? 心なのか?—— これほど相対する切実な問いを、桜子と欧介という2人に託して、多くの視聴者に自分事として考えさせることができたのだと思う。

たとえば、2話。欧介を大富豪だと思い込み、道草に誘って、夜の庭園を裸足で走り回ったり、ボートでうたた寝した桜子。こんなにも無防備に心を許せる人がいることに幸せを感じていたはずなのに……。欧介のついた嘘がバレ、貧乏な魚屋だと知った瞬間、「嫌いになりました。さよなら」と笑顔で踵を返す。

美しい月明かりの中で、欧介とあれほどロマンチックなキスを交わそうとも、桜子にとって大事なのは、やはりお金だった。

ところが、9話。東十条家の両親との顔合わせのために上京した父親に、見栄を張ってとりつくろった嘘をつかせようとする桜子を欧介はたしなめる。だが、その父親が帰るバス停で、桜子は「父ちゃん。ごめん。嘘つかして」と声を振り絞る。そんな桜子に欧介は「きっとあなたの辛いこと、全部忘れられる日が来るから」と慰め、桜子は「10秒だけ」と、欧介の肩にもたれて涙をこぼす。

お金には代えられない大切なものがあること、そして待ち望んでいた王子様が欧介であることにはっきりと気づいた桜子がそこにはいた。このバス停のシーンは、25年ぶりに見ても、小野武彦演じる父親が桜子に言葉をかけ始めた瞬間から、涙腺崩壊する。

最終話。ニューヨークに渡った欧介を桜子が追いかけて行くあたたかくて素敵なハッピーエンドは、ブリキのカメレオンが見届ける。

今回の一気見で、桜子の浮かべる“ビジネス笑顔”をどこかで見たと思ったら、『ローマの休日』(1953年公開)でオードリー・ヘップバーンが演じたアン王女が宮殿の記者会見で恭しく見せる笑顔だった。

そんなアン王女が窮屈な宮殿生活から脱け出し、ローマの街で新聞記者と過ごした束の間の自由時間。フツーの女の子として自分の手で“ほんとうの幸せ”を掴みかけた経験を胸に、ラストの記者会見では再び“ビジネス笑顔”を振りまきながら、“籠の鳥”に戻るべく王宮の奥に消えていく。王女には“休日”が必要だったのだ。

一方の桜子は、1年365日“ビジネス笑顔”で過ごす、お金持ちの堅苦しい“籠の鳥”生活であろうとも、それが“ほんとうの幸せ”と信じて合コンに励んだ。だが、全力で探し当てたのは、「あなたといると私は幸せ」と素直に言える、飾らない相手との暮らしだった。

自分の幸せは自分で掴み取りに行く強烈なエネルギーを持ち合わせた桜子に、アン王女のような“籠の鳥”人生は向いていなかったのだ。

そんなことを考えさせる『やまとなでしこ』。不朽の名作『ローマの休日』がそうであるように、後味が爽やかだから、繰り返し見たくなる王道ラブコメの傑作だと思う。

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