【吉本ばななさん】親しい人の死や、一人になっていく孤独感。「楽しい」と思えなくなりそうなとき、できることは?
「自分がもっているもの」を使い切って生きていく
私は未来に悲観的ではないんです。自分が要介護になる頃にはきっと、優秀な介護ロボットが次々に作られるだろうし、人間洗濯機ももっと使えるように改良されているかもしれません。
思い出してください。私たちは通信手段が電話だけだった時代に育ったのに、ウィンドウズ 95からのインターネット、携帯電話、スマホ、今はチャットGPTだって体験しているんです。私が『キッチン』を書いたときは、まだ手書きだったのに(笑)。
しかもその間に、バブルもあったし景気の低迷もあったし、阪神・淡路大震災も東日本大震災もコロナもあった。いい思いも悪い思いもしながら、その時々を工夫しながらやってきました。だから、大丈夫だって思うんです。何があっても。
私たちは震災もコロナも
いい思いも悪い思いもしながら工夫して
乗り越えてきた。だから、大丈夫
大丈夫であるために、「自分が本来もっているもの」でないことは、しないことです。人って、生まれたときから変わらないものだと思うんです。成長する過程でいろんなものがくっついて、本来もっていたものがわからなくなることも多いけれど、年齢を重ねることで余計なものをそぎ落とされて、また本来の「もっているもの」で生きていく……、それがいいんじゃないかな。
「もっているもの」とは何か、っていうと、自分の素質みたいなもので、好き嫌いとは無関係です。料理は得意だけど、植物は育てられないとか。こういう人とはつきあえるけれど、この人はダメだとか、そういう本質的なもの。
年齢を重ねて体力が落ちてくると、「これしかできない」って気づきやすくなります。わからなかったら、まわりの人に聞くといい。みんな教えてくれますよ。
気づいたら、それだけに力を注いでください。分散しちゃったらもったいない。もし「もっていないもの」がほしくなったら、得意な人を頼ればいいんです。天ぷらは天ぷら屋さんで食べる、みたいに(笑)。そして「もっているもの」を使い切って、死にましょう。
生まれたときから「もっているもの」を使い
切って死にましょう。余計なものをそぎ落とし
本来の自分に戻れるのが高齢期です
今おすすめしたい吉本ばななさんの本
ヨシモトオノ
天井の木目に小さな顔が……吉本ばなな版『遠野物語』誕生
天井の木目に小さな顔が見える––––そんな「不思議といえば不思議」な小さなエピソードは現代もある。民俗学者・柳田國男が各地の伝承を集めた不朽の名作『遠野物語』のように、美しい怪談を集めた「ばなな版・遠野物語」。
●文藝春秋 1760円
※詳細は下のボタンから
私と街たち(ほぼ自伝)
街の記憶は人生の記憶。今だから語れる「あの頃」
子どもの頃すごした街、恋をした街・別れた街、住むように旅した街、そして父や友の死を受け入れた街道……。記憶の中の風景は実に鮮明で、その時間をともに過ごしたかのような錯覚に陥る。文庫になって7月8日発売。
●河出文庫 770円
※詳細は下のボタンから
▼あわせて読みたい▼
>>還暦を迎えた【吉本ばななさん】60代を楽しく生きるための5つのキーワードが目からウロコだった…!! >>年齢を言い訳にしない! 宇宙飛行士・野口聡一さんに学ぶ「60代からの夢の見つけ方、叶え方」 >>【ダウン症の書家・金澤翔子さん】彼女の魔法のような力はどこから来るのか?母の心が震えた、その正体とは?
撮影/柴田和宣(主婦の友社)
取材・文/神 素子
※この記事は「ゆうゆう」2025年8月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
