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「誰しもが人生の締め切りに追われて、やらなきゃいけないことがある」ロックミュージシャン・吉井和哉さんが語る“生きる”とは?

「誰しもが人生の締め切りに追われて、やらなきゃいけないことがある」ロックミュージシャン・吉井和哉さんが語る“生きる”とは?

撮影/横山マサト

ドキュメンタリー映画『みらいのうた』が全国公開中。本作は密着3年、吉井和哉という人間と音楽のルーツを辿り、がん告知から東京ドームでの復活ライブまでの裏側を記録した作品。前編に引き続き、同世代の死から感じたこと、どんなふうに年を重ねていきたいかを伺いました。

「誰しもが人生の締め切りに追われて、やらなきゃいけないことがある」ロックミュージシャン・吉井和哉さんが語る“生きる”とは?(画像2)

撮影/横山マサト

「誰しもが人生の締め切りに追われて、やらなきゃいけないことがある」ロックミュージシャン・吉井和哉さんが語る“生きる”とは?(画像3)

撮影/横山マサト

プロフィール

吉井和哉さん THE YELLOW MONKEY

よしい・かずや●1966年、東京都生まれ、静岡県育ち。
88年にロックバンド・THE YELLOW MONKEYを結成し、92年にメジャーデビュー。90年代に「JAM」「バラ色の日々」などのヒットで一世を風靡し、圧倒的な存在感で世代を超えて愛され、第一線を走り続ける。
公式サイト https://www.yoshiikazuya.com

「人もちゃんと老いていくし、タイムリミットがある」

全国公開中のドキュメンタリー映画『みらいのうた』では、偉大なロックの先輩や同世代の方の訃報についても触れられている。ゆうゆう世代にも経験したことがある人が多いだろう。誰しも受け止め難い「死」に対し、吉井さんはどのように考えているのだろう。

「人によっては“ロックを愛しすぎたんじゃない”という人もいたし、音楽業界以外でも、僕らの同世代の中でもそれは起きていて、これってなに? 世代によるものなの?って。今まで以上に目立つんだけど、年取るってこういうことなの? 50代後半になるってこういうことなの?って思っちゃって。ちょっと言葉ではうまく説明できないし、受け止め難いんですけど。僕はがんになる前まで『絶対死なないし、絶対老けない。不老不死だ!』って思ってたんですが、人もちゃんと老いていくし、タイムリミットがあるんだと痛感して。逆にだからこそ、誰しもが人生の締め切りに追われてやらなきゃいけない大切なことがあるんだと思いました。ちょっと(『鬼滅の刃」の)煉獄さんみたいなこと言いますけど、『時間があるからこそ、人は儚くて強いんだ』って」

映画に登場するEROさんは、吉井さんにとって“恩師”のような存在で、一緒にバンドを組んでいたこともある。EROさんにとっての“人生の締め切りに追われてやらなきゃいけないこと”は「歌唱」だったと吉井さんは語る。

「“年を取ったら手放さなきゃいけないものがある”って、よく年上の方から聞くんですよね。でもEROは常にかっこつけてて。革ジャンにスキニー履いて、あんなに体が不自由なのに絶対ブーツ履いてて。彼はそこにこだわってるから、いつもかっこいい姿がフレームに収まってますよね。住んでいる家もそうだし、それを永遠に手放さない人。だからこそ再び歌うことにもこぎつけられたんだと思う。たびたび静岡に帰省して彼の家に行くんですけど、ちゃんと正しいロックの精神を持っているか、毎度確かめる場所でもありました。ロックと自分の距離感を彼を通して見続けていたことは確かです」

「見えてるってことは叶うことだから、そこを追いかけ始めています」

数多くの名曲を世に送り出し、今も第一線を走り続ける吉井さんが表現する上で大切にしていること、長く続けられる秘訣について伺ってみた。

「元々はベーシストで、声が大きいとかよく通るとか、歌がすごく上手くてボーカリストになるっていうタイプではなく、抜けてしまったから見つかるまでの代打という感じで歌い出したんです。それなりに頑張ってきたと思える中で、今、歌が満足に歌えなくなってきていて、正直引退を考えたこともあった。イベントなどに呼ばれてちゃんと歌えないときもあって、辛かったりもするんです。でも、こういう病気になったからこそ書ける言葉とか、そこで生まれるバイブレーションもあるから。音程通り歌えたり、きれいな声で歌うこと以外のところで、人の心に響くものってあるかもしれない。これからそれを見つけていくところなんですけど、そういう姿をファンは自分に置き換えて、長年一緒に歩んでいってくれているのかなって。20代の吉井さんはこうだった、30代はこうだったって常に後ろから追いかけてくれる人もいるから、そういう人がいる限りは怠けずにやっていこうと思えるのが、長く続けられる秘訣ですかね」

最後に、来年60歳で、一般的には節目ともいわれる年齢になるが、これからどんなふうに年を重ねていきたいか尋ねてみた。

「自分の中でいつかこういう声が出せるようになるなとか、こんなアルバム作って、曲を作って⋯⋯ということが、THE YELLOW MONKEYでもソロでもある。ビジョンが見えているんです。見えてるってことは叶うと思っているから。そこをとにかく追いかけ始めていますね」

【Information】映画『みらいのうた』

密着期間3年を超えるドキュメンタリー作品。ロックミュージシャン吉井和哉と彼を音楽の世界に引き入れた“恩師”との40年ぶりのセッションのはずが――。同時期に病に倒れる。限りある“いま”を生きるすべての者に響く人生と音楽のドキュメンタリー。

●監督・撮影・編集/エリザベス宮地
●出演/吉井和哉、ERO
●全国公開中
●製作幹事・配給/murmur
●配給協力/ティ・ジョイ
©2025「みらいのうた」製作委員会

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