60歳から人生はもう一度おもしろくなる。親と向き合い、地域とつながる「これからの私」の見つけ方
子育てや仕事にひと区切りがつく50代、60代。自分の時間が戻る一方で「これからどう生きたいか」と立ち止まり、同時に年齢を重ねた親のことも気になり始めます。前回に続き、大浦敬子先生に「女性は60歳から」という言葉を入り口に、自分を知ること、親と向き合うことについて伺いました。
一人で暮らす実家の親の元気な声にほっとしながらも、この暮らしが永遠ではないことを、心のどこかで感じている方も多いのではないでしょうか。
前回のインタビューでは、認知症ケアから生まれた「おとなの学校」を通して、人はいくつになっても学ぶことで輝き直せることを伺いました。
今回は、大浦先生が語る「女性は60歳から」という言葉を入り口に、自分を知ること、親と向き合うこと、そして地域の中で新しい役割を見つけることについて伺います。
プロフィール
大浦敬子(おおうら・けいこ)
医師、医学博士。「おとなの学校」グループ代表。介護施設を学校に見立て、高齢者の学ぶ喜びや意欲を引き出す「学校式介護」を開発。回想法を取り入れた「おとなの教科書」を全国に届けている。
――「女性は60歳から」とは、どのような思いから生まれた言葉なのでしょうか
「そうですね。女性は60歳からだと思っています。今は皆さん長生きですから、60歳を迎えても、その先にはまだ30年ほどの時間があるかもしれません。だからこそ、その時間を何となく過ごすのではなく、自分らしく、心が弾むような毎日をどうつくっていくかを考えてほしいと思います。
子育てや仕事など、これまで背負ってきた役割が少しずつ落ち着き、『さて、これから何をしよう』と立ち止まる方も多いのではないでしょうか?また、お孫さんのお世話を楽しんでいる方もいれば、『特にやることがなくて』と感じている方もいると思います。
でも、これからの時間を何もしないまま過ごすのは、やはりもったいないですよね。若い頃のように無理をする必要はありませんが、自分が楽しいと思えることや、誰かと一緒に喜べることなど、心が少し輝くようなものを見つけてほしいと思っています」
――先生ご自身も、とてもエネルギッシュで生き生きとされています。年齢を重ねても輝き続けるためには、何が大切なのでしょうか。
「まずは、自分を知ることだと思います。人生はある意味では謎解きの旅のようなものです。『なぜ私は、この言葉にこんなに傷つくのだろう』『なぜ、いつも同じ場面で苦しくなるのだろう』と自分の心をたどっていくと、その人の考え方の癖をつくった、大元のようなものが見えてきます。
そこでそうだったのか、と納得できると、昔の嫌な記憶も、以前とは少し違って見えるようになるので、無理に自分を肯定しなくてもいいと思っています。ただ、『私はこういう人だったんだ』、『だから、あのときは苦しかったんだ』と理解できれば、それだけで楽になることがあります」
親が元気な今こそ、できる親孝行を
――50代、60代になると、自分自身のこれからと同時に、年齢を重ねた親のことが気になる方もとても多いです。
「少し強い言い方になりますが、親は必ず亡くなります。だから、今できる親孝行をしてほしいんですよね。親孝行というと旅行に連れていくなど、大きなことを思いがちですが、電話を一本かける、一緒にごはんを食べるなど、むしろ、小さなことでも十分なんです。
もちろん、親子関係が良好な方ばかりではありませんよね。親だからこそ素直になれなかったり、昔言われた言葉が心に残っていたりして、少し距離がある方もいると思います。
でも、今は元気に暮らしていても、一年後も同じ状態でいられる保証はありません。転んで骨折するかもしれないし、入院をきっかけに、それまで保たれていた体力や認知機能が大きく低下することもあります。親の状態が良いうちに今できることをしてほしいですね。来年も元気でいてくれたら、また親孝行をすればいいでしょう」
――離れて暮らしていると、親の変化に気づきにくいこともありますが、どんなことを意識しておけばいいのでしょうか。
「LINEなどで『元気?』と聞くだけではなく、たまに電話をして、3分でもいいので会話をしていただきたいです。『元気?』と聞けば、親はたいてい『元気よ』と答えるものです。でも、そこで終わるのではなく、「今日は何を食べたの?」「どこへ出かけたの?」と、もう少し話してみると、いつもならすぐに答えられることが曖昧になったり、話が少しちぐはぐだったりすることが、変化に気づくきっかけにもなります。
ただ、親の状態を確認するための質問ばかりになってしまうと、親も身構えてしまうので、大切なのは監視をすることではなく、その人の一日に興味を持つことです。『今日は何をしたの?』と聞いて話を聞く。それだけでも、親にとっては”自分のことを気にかけてくれている”と感じられる時間になると思います」
「親」になる前の、その人の人生を聞いてみる
――「親の、その人自身の一日に興味を持つこと」が大事なんですね。家族の会話はつい、今の暮らしや体調の話が中心になってしまいますよね。
「そうなんです。業務報告的な『今日は何を食べた』『病院はどうだった』という話だけになりやすいですよね。もちろん今日の話も大切ですが、もう少し昔まで戻ってみてほしいんです。
昔の話の中には、お母さんやお父さんが、今よりもっとキラキラしていた時代があります。学校ではどんな生徒だったのか、どんな友達がいたのか、どんな洋服を着ていたのか、誰に憧れていたのか。80歳近いお母さんにも、『若い頃はモテたのよ』と思い出して、照れながら話してくれるかもしれません。その頃の話をしていると、人は脳の中で一瞬、その時代へ戻るんですよね。背中を丸めていた方が、すっと姿勢を伸ばすようなこともあるんです」
――若い頃の自分を思い出すと、表情や姿勢まで変わる。
「そうなんです。中学生の頃を思い出せば、中学生の自分に戻りますし、若い頃のデートを思い出せば、少しおしゃれをしたくなるかもしれません。一緒に暮らしていなくても、電話で『そういえば、あのときはどうだった?』と聞くことはできます。
最初は『そんな昔のこと、もういいわよ』と言われるかもしれませんが、少しずつ思い出話をする習慣をつくっていけばいいんです。親の昔話を聞くことは、認知機能のためだけではありません。母がどんな少女だったのか、父が何を夢見て、どんなことに傷つき、これまでどのように生きてきたのかを知ることでもあります。目の前にいる親を、一人の人間としてもう一度知り直す。親の人生を知ることは、親子の関係をもう一度結び直すことでもあるんです」
――親を一人の人として知り直すきっかけとして先生が考えられているのが、「家族の教室」というプログラムですね。それはどのような教室なのでしょうか。
「『おとなの学校』で行ってきたことを、家族の間でも手軽にできるようにしたいと思いました。家族の日常会話だとどうしても『薬は飲んだ?』『病院には行った?』と、健康や用事の話、事務的なことになってしまいがちです。でもそこで、昔の写真や教材を間に置きながら、『この頃はどこに住んでいたの?』『どんな友達がいたの?』と一緒に記憶をたどっていくことで、親も自然に話しやすくなりますし、子どもの側も、これまで知らなかった母や父の一面に出会うことができます。
親にとっても、自分が歩いてきた人生を家族に聞いてもらうことは、とてもうれしいこと。介護が必要になってからではなく、元気なうちに家族の物語を聞いておくこと。それが、お互いを理解し直し、これからの関係をつくっていく時間になるのだと思います。『家族の教室』を題材にして会話をすることで、親子がもう一度つながるきっかけになればと思っています」
このような「おとなの学校」、そして認知症について学べる大浦敬子先生のお話し会を9月9日(水)、主婦の友社で開催します。
★お申し込みはこちらから★【おとなの学校 スペシャル課外授業】まだ知らない、親の物語に出会う「自分ものがたり」教室<参加費無料>
認知症と回想法を学び、親子の会話を深める
大浦敬子先生に認知症についての基本的な知識と「回想法」を教えていただきながら、親の人生を聞き、かけがえのない思い出を「自分ものがたり」として可視化することの大切さを学びます。
また、主婦の友社の編集者が伝える、会話のきっかけや質問の仕方を体験するワークも交えて開催。家庭ですぐに始められる会話のヒントを持ち帰っていただけるセミナーです。
日時|2026年9月9日(水)13:00〜14:30
会場|主婦の友社
東京都品川区上大崎3-1-1
目黒セントラルスクエア内
定員|50名
※最低催行人数10名
参加費|無料
※お申し込み多数の場合は、抽選となる場合がございます。
※抽選となる場合、開催日の1週間前までに事務局よりご連絡いたします。
※参加をご希望の方は、お早めにお申し込みください。
取材・文/橋本夏子
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