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人は、いくつになっても“学ぶこと”で輝き直せる――認知症ケアから生まれた「おとなの学校」とは?

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ゆうゆうtime編集部

年齢を重ねた親との会話で、同じ話の繰り返しや、これまで難なくこなせていたことに時間がかかる様子に気づき、不安を感じたことはありませんか。そんな不安に向き合うヒントを、高齢者向け学習プログラム「おとなの学校」を開発した医師・大浦敬子先生に伺いました。

今はまだ元気に暮らしている親を見て、この先、物忘れが進んだらどうなるのだろう、もし認知症になったらどう接すればいいのだろうと、漠然とした不安を抱く方は少なくないでしょう。

なぜ「学校」という場所が、認知症のある方の心や行動を動かすのか——「おとなの学校」が生まれた背景と、そこに込められた思いを聞きました。

プロフィール
大浦敬子(おおうら・けいこ)
医師、医学博士。「おとなの学校」グループ代表。介護施設を学校に見立て、高齢者の学ぶ喜びや意欲を引き出す「学校式介護」を開発。回想法を取り入れた「おとなの教科書」を全国に届けている。

いつまでも、自分の力で人生に参加できる場所を

――「おとなの学校」では、高齢者をただ「介護される人」として見るのではなく、学び、語り、誰かと笑い合う一人の生徒として迎えているそうですね。そもそも、なぜ“学校”という形にされたのでしょうか。

「介護施設のレクリエーションというと、歌を歌ったり、簡単な体操や遊びをしたりすることが多いですよね。もちろん、それを楽しんでくださる方もいますが、中には『子ども扱いされているようで嫌だ』『自分には合わない』と感じ、参加したがらない方もいらっしゃいました。

年齢を重ねても、その方は長い人生を歩んできた一人の大人です。認知症があるからといって、幼い人になるわけではありません。だからこそ、子ども向けの遊びを用意するのではなく、一人の大人として誇りを持って参加できる場所をつくりたいと思ったんです。そこで思い浮かんだのが、学校でした。

学校であれば、学ぶことにも、手を挙げて答えることにも、教科書に文字を書くことにも、きちんと意味があります。皆さんも『遊ばされている』のではなく、『学びに来ている』という気持ちで、自然と背筋を伸ばし、積極的に参加してくださるんです。

黒板を見たり、『起立、礼、着席』という言葉を聞いたりすると、学生時代の感覚がふっと戻ってくる方もいます。昔の自分を思い出し、生徒として授業に参加することで、その方の中に残っている記憶や意欲が少しずつ動き始める。

そうした、一人ひとりが自分らしさや誇りを取り戻せる場所をつくりたいと思い、『学校』という形にしたんです」

――実際に「学校」という形にしたことで、皆さんの様子はどのように変わっていったのでしょうか。

「今でも忘れられないのは、重度の認知症と診断されていた方が、授業中にすっと手を挙げ、質問に答えたことです。普段は会話がかみ合いにくいのに、授業が始まると先生の問いかけを理解し、きちんと答える。昼間は横になっていることの多かった方も、国語や社会の授業になると起きてきて、自分の経験を話したり、ほかの方の発言を聞いて笑ったりするようになりました。

それまで車椅子を押してもらうのを待っていた方も、自分で車椅子を動かし、教室へ向かうようになったということもあるんです。介護の度合いは変わらなくても、『授業へ行きたい』『自分で動きたい』という気持ちが生まれることで、ご本人の一日の過ごし方が変わるんです。そして結果として介護する側の負担も減っていくというわけですね」

――本人の意欲が戻ることで、介護のあり方まで変わるのですね。

「眠っている子どもを抱くと重く感じますが、その子が自分からしがみついてくれると、少し軽く感じますよね、それと似ています。介護される方が、こちらの動きに少しでも応えようとしてくれたり、自分から動こうとしてくれたりすると、介護する側はずっと楽になります。何より、ご本人の表情や一日の過ごし方が変わるんです。なので、本当に大切なのは、ケア対象者ではなく、自分から動きたくなる場所や役割をつくることこそが必要なんです」

目指したのは、教材ではなく「学校」だった

大浦先生は32歳で母親を亡くし、父親にも認知症の兆候があったことから、実家の病院と高齢者施設を引き継いだそう。実際に経営という立場で施設を見てみると、何をするでもなく一日を過ごす高齢者の姿も多く、「このままではいけない」と感じたそうです。

――施設を改善するために取り組んだことは何ですか?

「なんとか改革をしたいと試行錯誤していたときに、脳科学者・川島隆太先生のセミナーに参加して学習療法のことを知りました。早速プログラムを導入してみると、スタッフから『皆さんの目がキラキラするんです』という声が上がったんです。この学習プリントの効果は絶大でしたが、私はもっと抜本的に何かを変えたいと思うようになり、教材ではなく、学校そのものを作ろうと決心しました。前に先生がいて、黒板があって、みんなで一つのテーマについて話し、笑い合う、本当の教室のような場所をつくりたかったんです。

なので、まず教材は国語、算数、理科、社会、音楽など、学校で習うすべての授業を始めました。すると、それまで横になっていた方が昼間に起きて授業へ来るようになり、自分の思い出を話し、ほかの人の言葉に耳を傾けるようになっていきました。施設全体の空気までガラッと変わっていったのです」

――理科や社会までと、かなり幅広い科目を取り入れたんですね。

「それは、教材の提供ではなく学校そのものを目指して作ったからです。学校には、教科だけでなく、黒板や日直、出席簿、校歌があります。『起立、礼、着席』と言われれば、自然に体が動きます。それだけで、教室という空間には強い力があるんです。黒板や教科書、日直や校歌など、誰にとっても懐かしいものを集めて学校という世界をつくる。そこへ入った瞬間、その方は『患者』や『介護される人』ではなく、一人の生徒になります」

「全員がわかる。全員ができる」と信じる

――「おとなの学校」では、認知症だからわからない、という前提で接しないことを大切にされていらっしゃいますよね。

「そうですね。『おとなの学校は全員がわかる。全員ができる』と信じるところから始めます。授業中は皆さん本当に楽しそうに一生懸命に教科書へ答えやメモを書いていきます。余白に小さな字でびっしりとメモを取る方もいますし、皆さん本当に真面目で優等生。やはり、人はいくつになっても、学びたい、認めてもらいたい、誰かの役に立ちたいという思いがあります。だから、もし人生でもう一度学校へ戻れるのなら、今度は優等生になりたい、という気持ちがあるのかもしれません」

――「おとなの教科書」には、色鮮やかな花や料理、季節の風景など、眺めているだけでも心が華やぐ写真が多く使われていますね。

「利用される方は女性が多いので、女性が見て心を動かされるものを大切にしています。花なら、きれいな色の花、食べ物なら、見た瞬間に『おいしそう』と感じ、昔の食卓を思い出せる写真がいいですよね。なぜなら、教科書を開いたときにパッと写真をみることで、心が動き、そこから会話が始まるかもしれませんし、記憶がよみがえるかもしれません。これこそが大切なんです」

――写真を見せるだけではなく、先生側の問いかけやコミュニケーションの仕方も大切ですよね。

「はい。最も大切なのが、質問を自然につないでいくことです。『これは何でしょう』と聞いて終わるのではなく、『どこで見ましたか』『誰と行きましたか』『そのとき、何を食べましたか』と問いを重ねていきます。そうすると、途中から芋づる式に、いろいろな思い出が溢れ出てくるんですよね。

あくまでも正しい答えを出すことがゴールなのではなく、その人の中にある記憶や言葉、感情を、ゆっくり動かすためのきっかけなんです。懐かしい料理の写真から、家族や故郷、若い頃の自分へと話が広がっていきます。そうして語られる思い出は、家族にとっても、これまで知らなかった親の人生に触れる大切な時間になるというわけです」

大切なのは一緒に喜ぶことと、信じて待つこと

――先生役の介護スタッフの方も皆さん生き生きされていて、教え方もコミュニケーションも素晴らしいですね。

「そうなんです。皆さん、もともと教職に就いていたわけではなく、普段は介護の仕事をしているスタッフです。でも、教壇に立ち、先生という役割を担うことで、表情や声が変わっていきます。授業を楽しくしたり、生徒の言葉を引き出したりする中で、仕事への責任感が生まれ、新しい楽しさや誇りも見つけていくんです。生徒だけではなく、先生役のスタッフも元気になっていくんですよ」

――授業を行う上で、スタッフの方にはどのようなことを大切にしてほしいと伝えているのでしょうか。

「基本は、『笑う・喜ぶ・感謝する』の三つです。中でも特に大切なのが、喜ぶこと。私は『褒める』のではなく、『一緒に喜ぶ』ことを大切にしています。褒めるという行為には、できた人を上から評価するような関係が生まれることがありますよね。でも、何かを思い出したり、できるようになったりしたときに、こちらも一緒に喜ぶのであれば、同じ目線に立てます。『思い出せましたね』『できましたね』と、その瞬間を一緒に喜び、話してくださったことに感謝する。『笑う・喜ぶ・感謝する』ができれば、その場の空気は自然によくなっていくんです」

――年齢を重ねた親を前にすると、どうしても「できなくなったこと」に目が向いてしまいます。同じ話を何度もされていら立ったり、心配のあまり先回りしてやってしまうこともあります。

「それは、親御さんを大切に思い、心配しているからこそですよね。でも、できなくなったのではなく、その方が持っている力を使う機会が少なくなっているだけかもしれません。こちらが先回りして何でもしてしまうと、ご本人が考えたり、動いたり、誰かに話したりする機会も減ってしまいます。少し時間がかかっても、その方の力を信じて待つことも大切だと思います」

――「もうわからないだろう」と話すことを諦めるのではなく、一人の大人として問いかけることが大切なのですね。

「そうです。正しい答えを求める必要はありません。昔のことを尋ねて、その方が思い出したことにゆっくり耳を傾ける。それだけでも、表情や言葉が少しずつ変わっていきます。そして、何かを思い出したり、できたりしたときには、上から評価するように褒めるのではなく、『よかったね!』『思い出せましたね』と一緒に喜ぶ。その方と同じ目線に立つことが大切なんです。『おとなの学校』で皆さんが取り戻しているのは、学ぶこと、人と話すこと、誰かに必要とされること、そして、自分の存在を喜んでもらうこと。そうした喜びが、人をもう一度、生き生きとさせてくれるのだと思います」

いま、親の物語を聞いておきたい

――先生のお話を伺っていると、「おとなの学校」で大切にされていることは、施設の中だけの特別なものではなく、家庭での親子の会話にも生かせそうですね。

「そうですね。大切なのは、相手を一人の大人として尊重し、その方が歩んできた人生や、心の中に残っている記憶に耳を傾けることです。親子は長く一緒にいるからこそ、相手のことをよく知っているつもりになりがちですが、実はまだ聞いたことのない話がたくさんあると思います」

――たとえば、どのようなことを聞いてみるとよいのでしょうか。

「子どもの頃に好きだったことや、どんな夢を持っていたのか、仕事を始めた頃のこと、家族を持ったときの気持ちなど、身近なことからでいいんです。正しい答えを求めるのではなく、『そのとき、どんな気持ちだったの?』『誰と一緒だったの?』と、ゆっくり問いかけてみる。すると、そこから懐かしい記憶が少しずつ広がっていきます」

――そうした親の思い出を、聞くだけで終わらせず、形に残すとさらにいいですね。

「はい。自分史をつくりたいという意見もシニアの中で多いと聞きますが、今まで聞いたお話しを言葉にして残していけば、その方自身のストーリー、『自分ものがたり』が成立します。ご本人にとっては、自分の人生を振り返る貴重な時間になりますし、ご家族にとっても、今まで知らなかった親の一面に出会えるきっかけになると思います。親子の仲を深める素晴らしいひとときになるはずです」

とはいえ、どんなきっかけで親に聞いていけばいいか、戸惑う方も多いと思います。
そこで、大浦敬子先生をお招きして、認知症について知っておきたい基本のお話とともに親とできる自分ものがたりのワークを行います。ワークでは、「回想法」を使いながら、思い出を自然に引き出す問いかけ方を体験し、聞いた話を「自分ものがたり」として残していく方法をご紹介していきます。

今まで知らなかった親の一面に出会い、親子でゆっくりと言葉を交わす時間を始めてみませんか。

【おとなの学校 スペシャル課外授業】まだ知らない、親の物語に出会う「自分ものがたり」教室

認知症と回想法を学び、親子の会話を深める

大浦敬子先生に認知症についての基本的な知識と「回想法」を教えていただきながら、親の人生を聞き、かけがえのない思い出を「自分ものがたり」として可視化することの大切さを学びます。

また、主婦の友社の編集者が伝える、会話のきっかけや質問の仕方の取材術を体験できるワークも交えて開催。家庭ですぐに始められる会話のヒントを持ち帰っていただけるセミナーです。

日時|2026年9月9日(水)13:00〜14:30
会場|主婦の友社
東京都品川区上大崎3-1-1
目黒セントラルスクエア内
定員|50名
※最低催行人数10名

★お申し込みはこちらから★

※お申し込み多数の場合は、抽選となる場合がございます。
※抽選となる場合、開催日の1週間前までに事務局よりご連絡いたします。
※参加をご希望の方は、お早めにお申し込みください。


取材・文/橋本夏子



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