95歳、現役歌人・馬場あき子さん。「歌があるから、元気でいられる。歌があるから、人とつながることができる」
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ゆうゆう編集部
少女時代から短歌に親しみ、95歳の今も歌壇の第一人者として、エネルギッシュに創作を続けている馬場あき子さん。頭脳明晰で、語り口もとてもチャーミング。そんな馬場さんに、歌の魅力、今思うことなど、自由に語っていただきました。
忙しいほうが生きている気がする
馬場あき子さんの93歳から94歳にかけての一年に密着した映画『幾春かけて老いゆかん 歌人馬場あき子の日々』が話題になっている。
95歳の今も歌人として第一線で活躍し、能作家としても新作を手がける馬場さん。明るくほがらかで、口跡もすっきり。くるくるよく動く表情もとても魅力的だ。
「忙しいほうが生きているという気がするんです。肉体は前のようではないけれど、痛み止めを飲んででも私は出かけていきます。外に行けば楽しいですから」
来週は京都や兵庫で講演会をする予定だと、ほほ笑む。普段の日は、朝7時に目を覚まし、7時半に床から起きる。
「それからぐずぐずしているの。布団を畳んだり、畳むといっても丸めておくだけですけどね。毎朝、家のガラス戸を開けて陽の光と風を入れるのもひと仕事ですね。2階が4枚、1階が8枚、計12枚ありますから」
朝食は青い野菜にハム、スープ、パンと決めている。
「ずっと同じです。そういうのも好きなの、私。でも季節は巡り、外の景色は少しずつ変化する。新聞をめくれば、毎日新たなニュースが入ってくる。また殺人が起きたなぁ、事故も多いなぁ、でもゆううつになっちゃいられない。元気を出さなければと自分を奮い立たせるわけです」
自宅が馬場さんの発行する歌誌『かりん』の事務局を兼ねているので、10時になればお当番の人が毎日やってくる。
「電話や事務処理をお願いしています。その人たちとあれやこれやしゃべるのも楽しみです。人の顔を見るのが、私はいちばん好きだから、これでまた元気が出るのよ」
夕方4時になれば、お当番さんは帰宅。馬場さんは再びひとりになる。
「眠るのは12時か1時かな。枕元にいっぱい本が積んであって、今日は何を読もうかなと寝床に入ります」
今は宮城谷昌光氏の『史記の風景』を読み直している。中国の古典史記に対する考察や解釈がまとめられた一冊だ。
「彼の文章、大好きなの。気に入ったところに付箋をはさんでいたら、付箋だらけになってしまって。もうすぐ読み終わっちゃうからつまらないな。次に何を読もうかしら」
歌が生まれるのは、夜明け前の夢とうつつのはざまだという。
「心が元気でいられるのは『人が身近にいる。ひとりの時間がある』、このバランスがいいからじゃないかと、自分では思っています」
文学で心が豊かになり、世界が広がる
小学生の頃にはもう百人一首を諳んじていた。高等女学校に入学すると、本格的に短歌をつくり始めた。
入学の翌年が開戦である。学徒動員が始まって、授業どころではなくなり、馬場さんも飛行機工場に動員された。終戦の直前に、早稲田の自宅は空襲で焼失している。
戦後は大学に進学。そしてほぼ同時期に短歌結社「まひる野」と、能の喜多流に入門した。
「遅れてきた青春でした。教師になってからも、料理学校や裁縫教室に通い、帰宅は夜遅く。でも希望があるから、少しも疲れなかった」
やがて「まひる野」の同人・岩田正さんと結婚。27歳で初歌集を発表する。
「岩田は同じ歌人ですから、歌でも能でも、やりたいようにやらせてくれました。『かりん』も、岩田と一緒に立ち上げたものです」
今の若者を見て思うことがある。
「将来という言葉を出すと、とっても困った顔をするんです。何かをつくり上げていく力を育てるためには、希望が必要なのに、見ている範囲が小さくなっているのね。我々大人にはそれを大きくしてあげる役割があるんです。文学の面白さを伝えたい。心が豊かになり、世界が広がり、ひとつの力となりますから」